農林中央金庫が実施した「日本の農業の持続可能性に関する意識調査」の結果、「子ども世代に農業を勧めたい」と回答した生産者はわずか2割だった。一方、国産食品・食材の安定供給に不安を感じる消費者は5人に1人にとどまった。また、農業の魅力を高める手段については、消費者・生産者ともに「賃金の上昇」と回答している。
現在、農政の基本理念や政策の方向性を定めた「食料・農業・農村基本法」について、25年ぶりの改正に向けた動きが進んでいる。農林中央金庫は、こうした動きを踏まえ、今年2月に「日本の農業の持続可能性に関する意識調査」を実施した。
この調査は、日本の農業に対する意識や実態の把握を目的としたもので、全国の消費者・生産者それぞれ約1000人(消費者1030人、生産者1084人を対象に行われた。
― 調査結果の概要 ―
《消費者の国産食品・食材、日本の農業に関する意識》
消費者に対し、生鮮食品・食材における国産品と輸入品の購入意向を確認した結果、約8割(79.2%)が「国産の方が良い」と回答した。その理由については、「安全性」がトップだった。
その上で、日本の農業について約8割(80.8%)が課題を感じていた。主な課題点としては、「人手不足」や「後継者不足」、「生産コストの上昇」等が挙げられている。
一方で、今後の国産食品・食材の供給・生産の未来に不安を感じるのは、消費者のおよそ5人に1人(22.6%)にとどまっており、最も多かった回答は「特に不安になるような支障が生じていない(53.9%)」だった。消費者における農業に対する課題認識と国産食材等の将来への意識の間にややギャップが見受けられる回答となった。
《生産者が抱える農業経営の課題とその解決策》
次に、生産者への調査の結果をみると、6割以上(65.2%)が農業経営を継続する上でなんらかの課題を抱えていると回答していた。具体的な課題として、「生産コストの上昇」、「後継者不足」、「販売価格の安さ」などが挙げられている。
こうした課題の解決に必要なことについては、人材確保支援、農機・設備のレンタルサービスや導入に向けた助成支援などが比較的多く挙げられた。
《次世代の農業に向けて消費者・生産者が思うこと、感じていること》
最後に、「将来の農業の担い手確保」という観点で消費者・生産者に質問が行われたが、「次世代を担う子どもたちに農業を職業として勧めたい」と思う消費者は15.9%、生産者では20.8%と低水準となった。
一方、「農業を職業として勧めたくない」と回答した消費者は約3割(29.6%)、生産者では約半数(46.4%)となった。
この消極的な姿勢の背景には、農業への複数の懸念があり、消費者側では「収入の不安定さ」や「天候や災害の影響を受けやすいこと」を大きなリスクと捉えている。また、生産者側では、「所得水準の低さ」や「収入の不安定さ」、「天候や災害の影響を受けやすいこと」が理由として挙げられている。こうしたことが、農業を次世代へ勧めることに対する懸念材料になっていることがうかがえる。
農業の職業としての魅力を高める方法については、消費者・生産者ともに「賃金の上昇」が最も多く挙げられている(消費者63.1%、生産者54.2%)。
さらに、消費者が「日本の農業に期待すること」、生産者が「日本の農業が果たすべき役割」と考えていることについてみると、ともに「食料の安定供給」が最も多い結果となった。
こうした結果を踏まえ、「食料の安定供給」を達成するために、足元の課題解決に加えて「儲かる職業」へのシフト、賃金も含めた「魅力ある労働環境」の実現等が鍵になることも示唆された。
調査結果のポイント
1.消費者の国産食品・食材、日本の農業に関する意識
◇消費者の約8割(79.2%)が国産食品・食材の購入意向あり。理由のトップは「安全性」。
◇消費者の約8割(80.8%)が日本の農業に課題を感じている。
◇一方、国産生鮮食品・食材の供給・生産の未来に不安を感じるのは、およそ5人に1人(22.6%)
2.生産者が抱える農業経営の課題とその解決策
◇生産者の6割以上(65.2%)が農業経営を継続する上でなんらかの課題を抱えている。
◇農業経営の課題解決に必要とされるのは「農業労働力の派遣や人材確保の支援」「農業機械や設備のレンタルサービスや、これらの導入に向けた助成などの金融支援」が上位に。
◇生産品目によって、上記の課題や解決策で上位に挙がる選択肢は異なる傾向に。
3.次世代の農業に向けて消費者・生産者が思うこと・感じていること
◇子ども世代に農業を職業として勧めたいと思う消費者は15.9%、生産者は20.8%にとどまる。
◇職業としての農業の魅力を高めるために求められるのは、消費者・生産者ともに「賃金の上昇」(消費者63.1%、生産者54.2%)
◇消費者が日本の農業に取り組んでほしいこと(期待すること)、生産者が考える日本の農業が取り組むべきこと(果たすべき役割)は、ともに「食料の安定的な供給」(消費者・生産者ともに70.3%)