科学技術振興機構(JST)は、戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)「日本‐カナダ国際産学連携共同研究」(Well Being な高齢化のためのAI技術)において、新規3課題の採択を決めた。
8件の応募の中から、専門家の評価などを踏まえ決定したもので、採択課題は、1)伊藤孝行京都大学大学院情報学研究科教授らの「FureAI:社会的会話エージェントとスマート行動モニタリングによる高齢者生活支援プラットフォームの実現」、2)海老原 覚東北大学大学院医学系研究科内部障害学分野教授らの「先進遠隔医療のための在宅デジタル高齢者総合機能評価の開発」、3)吉田英一東京理科大学先進工学部教授らの「介護作業支援を行う知能ロボットの開発」。研究実施期間は3年間(36ヵ月)を予定している。
SICORPは、省庁間の合意に基づき、文部科学省が特に重要なものとして設定した協力国・地域および分野において、相手側のファンディングエージェンシーと共同で研究提案の募集を行い、採択された国際共同研究課題に対して研究費を支援する。
今回は、カナダ国立研究機構(NRC)と共同で、「Well Being な高齢化のためのAI技術」分野の2国間共同研究課題の募集を行った。
採択課題のうち、伊藤京大教授らの「FureAI:社会的会話エージェントとスマート行動モニタリングによる高齢者生活支援プラットフォームの実現」では、AIを用いて独居高齢者の健康状態をモニタリング・管理し、高齢者同士のソーシャルネットワークを確立するためのプラットフォームである「FureAI」を共同開発することを目的とする。
日本側チームは、会話AIを活用した社会インタラクションを支援する手法の研究開発、カナダ側チームは、AIを活用したデバイスによる身体行動モニタリングを実施する。
また高齢者の自宅での快適な生活の確立のため、包括的な健康状態モニタリングと管理プラットフォームを構築する。
具体的には個人AIエージェントによりソーシャルネットワークを確立し、パーソナライズされたフィールドバックと対話を行うことで、高齢者の身体的・精神的な生活を向上させることを目指す。
海老原東北大教授らの「先進遠隔医療のための在宅デジタル高齢者総合機能評価の開発」では、これまで外来問診により行ってきた高齢者総合機能評価(CGA)を遠隔デジタル化し、AI解析を行う「Dibital CGA@home」を開発する。
カナダ、日本両チームの所有する多数の遠隔モニタリングデバイスをAI統合し、これまで外来問診などにより評価してきた高齢者機能情報を、より実生活に即した形でリアルタイムに包括評価し、ケアプランを作成する技術を開発する。
そのケアプランを継続的にD‐CGA@homeで再評価し、フィードバックすることにより、ケアプランを最適化するAIケアプランのシステムを確立する。
これにより世界的なケアプラン作成人材の不足問題を解決し、全ての高齢者が最適なケアプランを等しく享受できるようにすることを目指す。
吉田東京理科大教授らの「介護作業支援を行う知能ロボットの開発」では、人と自然に共存し、介護作業支援を行う知能ロボット(ARC)の開発を目的とする。基本的な作業は自律で、複雑な作業は遠隔操作により遂行することで、近い将来に展開可能な準自律ロボット技術を確立する。
日本側チームは遠隔作業を行うための枠組みと、運動学・動力学モデルに基づく人間の物理的状態の推定技術を構築する。
カナダ側チームはセンサーと安全なロボットの開発、介護を想定した実験での物理的なインタラクションに関するデータ収集と解析、人の意図や状況を理解するAI技術を開発する。
両国チームによる共同研究を通して、単一の介護従事者や作業者が、複数の高齢者の生活支援や顧客対応、工場での協働組み立てなどの物理的サービスや操作を遠隔で行えるようにする支援ロボットを開発することで、労働負荷の低減と就労機会の増加の実現を目指す。