農研機構は、土壌中の植物の根と共生微生物の相互作用をライブイメージングする「Rhizosphere Frame System(リゾフレームシステム)」を開発し、世界で初めて土壌中のマメ科植物の根と根粒菌が共生関係を築く過程を連続的に観察することに成功した。このシステムを用いてマメ科植物と根粒菌の相互作用の解明が進むことで、化学肥料の使用量低減や温室効果ガスの削減に向けた根粒菌の農業への効率的な利用技術の開発促進につながることが期待される。さらに、このシステムは他の植物―土壌微生物相互作用研究への応用も期待できる。
根粒菌の持つ能力の活用への期待
マメ科植物は、根粒共生を利用することで、窒素肥料に依存せず生育することができる。また、根粒菌の中には、温室効果ガスである一酸化二窒素(N2O)を無害な窒素へと還元する能力を持つものもいる。そのため、化学肥料に依存せず、環境に優しい持続可能な農業の実現に向けて、根粒菌の持つ能力の活用が期待されている。
一方で、実験室で高い共生能力が確認できた優良根粒菌を実際のほ場に投入しても、元々ほ場に生息している土着の根粒菌との感染競合に敗れ、期待した共生能力を発揮できないことが問題となっており、優良菌と土着菌の感染能力の違いを解明し、作物への優良菌の感染占有率をあげる技術を開発することが重要と考えられるようになった。
植物の根は土壌中に隠れており、根粒菌の感染は土壌中で起こる。根と根粒菌の相互作用を研究するためには、根を土から掘り起こさなければならない。しかし、掘り起こすことで根をとりまく土壌空間は破壊されてしまい、根で起きている根粒菌の感染をありのままの状態で比較し、観察することは困難だった。
「リゾフレーム」を開発
農研機構は今回、土壌中の根の観察を可能にするため、土を詰めた装置の観察面に根をほどよく露出させるよう、装置の大きさや植物の栽培方法の検討を重ね、植物栽培装置「Rhizosphere Frame(リゾフレーム)」を開発した。また、根粒菌の感染を追跡するため、蛍光タンパク質遺伝子を根粒菌の感染能力を損なわないように導入した。
さらに、リゾフレームと蛍光を発する根粒菌を組み合わせることで、土壌空間を破壊することなく、根粒共生のありのままの姿を観察できる「リゾフレームシステム」を完成させた。
蛍光根粒菌とリゾフレームを組み合わせた「リゾフレームシステム」
研究では、根粒菌の局在を追跡するため、緑系と赤系の蛍光タンパク質をそれぞれ高発現するダイズ根粒菌を作出した。また、植物を土から掘り起こすことなく根の様子を観察できるリゾフレームを構築した。さらに、蛍光根粒菌とリゾフレームを組み合わせたリゾフレームシステムを開発し、蛍光顕微鏡を用いて根と根粒菌と土壌粒子の位置情報を維持したまま根粒共生過程を連続的に観察することに世界で初めて成功した。
共生能力を効率的に利用するための技術開発へ活用
リゾフレームシステムによって、土壌中の根に感染する根粒菌を追跡観察することができるようになった。研究グループでは今後、この技術を利用して優良菌と土着菌の感染競合を解析することにより、優良菌がほ場で感染競合に敗れてしまう理由を解明し、共生能力を効率的に利用するための技術開発に活かしていくとしている。