日本学術会議は、見解「活動的縁辺域における持続可能な洋上風力発電開発に向けて‐海底地質リスク評価の重要性‐」を9月22日に公表した。欧州と比べて気象海象条件が厳しいわが国が、取り組むべき洋上風力発電開発の施策の方向性を提示。海底地質リスクを認識したうえで開発を進める必要性を強調するとともに、専門家も含めた産学官による体系的なガイドラインの整備を求めている。
洋上風力事業の官民推進が謳われる一方で、開発には日本固有のリスクが存在する。海底地形の様相は、欧州のような大陸縁である非活動的縁辺域と、日本などの島弧・陸弧といった活動的縁辺域とで大きく異なる。欧州で洋上風力が進んでいる場所は、主に北海の水深200メートル以浅の地域で、約57万キロ平方メートル。これらの地域は、遠浅で波浪が比較的穏やかで、海底地盤の変動は少ない。洋上の構造物に対する高潮、高波の影響が課題となるが、海底地盤の変動は考慮の必要性はほとんどない。
一方、日本周辺の海域で洋上風力開発対象となる水深200メートル以浅の地域は、ほとんどが海岸線から50キロメートル以内の海岸沿い。水深50メートル以浅の地域となると海岸線から10キロメートル以内となる。さらに、日本は気象海象条件が厳しく、地震大国であり、高潮、高波に加え、地震・津波、台風による外力が強く、海岸に近い狭小な浅海底への影響が大きい。
このため、海底域で地質・地盤災害が生じる可能性が高い。このような「海底地質リスク」は、地震・高波による液状化や海底地すべりなど多岐にわたり、台風時の暴風波浪による液状化は、洗掘(構造物周りの土砂の流出)とも密接に関わっていることが分かっている。
このように、地震、津波、台風は欧州に少ない日本独特の自然現象といえる。構造物への影響はリスクとして検討が進められているが、海底地盤と構造物の全体系、特に基礎との相互作用については十分検討が進んでいない。地盤は造物を支える土台であることから、地盤が不安定になると洋上風力施設自体が運用できなくなるため、海底地質リスクは現在見過ごされている緊急かつ重大なリスクとなる。
従って、日本では風車の構造基礎や電力ケーブル設置に対する海底地質リスクを適切に把握し、評価、管理することが喫緊の課題。リスク評価するためには調査が必要だが、既存データを活用することで費用と時間を節約できる。主に、公的機関で収集・管理された既存の海底地質データが公開されており、利活用できる状態ではあるが、十分な利活用が進んでいない課題がある。
これは、現在の高性能の機器でリスク評価を目的として取得されたわけではないという点と、産学官連携の不十分さによっている。また、現在及び今後の洋上風力発電開発のために取得された新規データの公開が進んでいないことも課題となっている。
日本固有のリスクを抽出
こうした問題意識を踏まえて、学術会議では、①海底地質リスクを認識した開発、②海底地質リスクの体系的ガイドライン整備、③既存の海底地質データの利活用、及び人材育成と産学官連携の必要性―の3点から取り組むべき施策の方向性を示している。
このうち海底地質リスクを認識した開発では、「日本周辺の海域で着床式と浮体式の洋上風力開発対象となる水深200メートル以浅の地域は、ほとんどが海岸線から50キロメートル以内の海岸沿いである。この海域は高潮、高波に加え、地震・津波、台風の外力が強く、海岸に近い狭小な浅海底への影響が大きい」と指摘。そのうえで、日本の海岸線付近には、日本固有の地質・地盤災害が生じるリスク、すなわち海底地質リスクがあるが、それを認識して開発を進める必要があるとしている。
海底地質リスクの体系的ガイドライン整備に関しては、地震大国かつ気象海象条件も厳しい活動的縁辺域に位置する日本沿岸域で、洋上風力発電の持続可能な開発を安全・安心に実現するには、日本固有の海底地質リスクを抽出し評価することが必須であることをあらためて強調。一方で、このような海底地質リスクの評価予測・設計・対策に関するガイドラインは未だ整備されていないことから、洋上風力発電施設の今後の本格導入と安定運用に向けて、海底地質リスクに関して、体系的に整理されたガイドラインを、専門家も含めた産学官連携によって緊急に整備する必要があるとしている。
既存の海底地質データの利活用、及び人材育成と産学官連携の必要性としては、洋上風力発電開発のための海底地質リスク評価に役立つ既存の探査データ・地図類が公的機関を中心に整備されてきたことに言及。産学官連携による利用促進と拡充は、効率的な調査計画立案や調査の補完、技術開発や人材育成の活性化に有用であることから、「海底地質データ等のオープンアクセスの促進とオープンな討議の場の構築と発展が望まれる。さらに、その人材育成を国際展開することで、日本の地位向上が期待できる」との見方を示している。