先月、厚生労働省の「外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会」の初会合が開催されました。技能実習制度、特定技能制度などに設けられている介護固有の要件の見直しに向けた議論が、いよいよ開始された形です。私も全国介護事業者連盟の代表の立場で、委員として検討会の議論に参加しています。【斉藤正行】
技能実習制度については、介護が対象職へ加えられた2016年10月から3年を目途に必要に応じて見直しを行う、ということになっていました。
その後、コロナ禍で外国人が十分に活用できない状況が続きましたが、今年に入って「5類」への移行など状況が変わり、本格的な外国人活用の機運が高まってきたことを受けて、議論開始の運びとなりました。
また、昨年末に政府が設置した有識者会議が取りまとめた中間報告書では、技能実習制度を廃止して新たな制度を創設する方針が示されました。新制度の在り方は、介護固有の要件の見直しをめぐる議論に影響を与えることになります。
厚労省の検討会の初会合では、今年末に議論の取りまとめを行うというスケジュールに加えて、以下の3つの規制を緩和することの是非が「検討項目」として示されました。
(1)技能実習、特定技能、EPAについて、外国人の訪問系サービスへの従事を認めていない
(2)技能実習について、外国人を受け入れる施設・事業所は設立から3年以上が経過していなければならない
(3)技能実習、EPAについて、外国人は就労開始から6ヵ月経たないと施設・事業所の人員配置基準の構成者としてカウントできない
検討会の翌日には多くのメディアで、「外国人の訪問介護解禁」といった見出しの記事が掲載されました。しかし、議論はまだ始まったばかりです。こうした報道は決定事項ではありません。委員の中には慎重姿勢の方も多く、より丁寧な議論が求められます。
ただ、大きな方向性として、3つの「検討事項」が全て緩和されていく可能性は高いと予測します。
(1)の訪問介護については、外国人が1対1で利用者の自宅へ行くことを心配する声が多くあがっています。そこで、サービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホームといった集合住宅での従事、訪問入浴のように複数名で訪問するサービスでの従事、などを最初のステップとした緩和が検討されると思います。
(2)の事業所開設から3年後という要件と、(3)の就労開始から6ヵ月後という要件についても、実現可能性は高いと思います。ただこちらは、技能実習を廃止した後の新たな制度の内容によって、具体策の中身が大きく左右されることになるでしょう。
人材確保に苦労している事業者の間では、3つの「検討項目」すべての緩和を期待する声が大きいと感じています。ただ、実現にはまだ多くの時間を要するでしょう。技能実習制度に代わる新制度の開始とタイミングを合わせることになるため、開始時期は1年から2年先となることが想定されます。
国際的な人材獲得競争に打ち勝つことを考えると、今の過度な制約が足かせとなっている側面は否めません。待ったなしの介護現場の人手不足の状況を踏まえると、早期の検討・決断が求められていると言わざるを得ません。
ただ同時に、外国人活用について過去数年にわたり丁寧かつ慎重な議論が行われてきた背景も、十分に考慮する必要があるでしょう。時流に応じた適切な落としどころを見定めていくことが重要だと思います。
また、3つの検討項目以外の論点もこれから示されていく可能性は十分にあります。引き続き今後の議論のゆくえに注目していきたいと思います。