交通渋滞は、私たちに日々のストレスを与えるだけでなく、日本国内に年間約10兆円の損失をもたらし、さらには温室効果ガス排出量にも影響を及ぼす深刻な問題となっている。
この問題を解決すべく、渋滞がいつ・どこで発生するかを予測するAIに世界中から注目が集まっている。
京都大学大学院情報学研究科の鹿島久嗣教授、竹内孝助教や、住友電工システムソリューション株式会社の研究グループは、これから起きる渋滞の場所と長さを予測する新たな時空間AI技術「QTNN」(Queueing-Theory-based Neural Network)を開発した。
QTNN最大の特徴は、交通工学の知見に基づいて、混雑の変化と道路網の関係を学習する機能。
警視庁から提供されたデータを用いた東京都内1098箇所の道路における「1時間先の渋滞長を予測する実験」で、QTNNは平均して誤差40メートル以下という高精度な予測を達成した。この結果は、現時点で最先端とされる深層学習手法よりも予測誤差を12.6%も削減することに成功している。
今後は、実環境での本格的な運用に向けて、一部の道路において評価試験を実施し、信頼性の検証を進めていく予定。
今後起きる交通渋滞を予測することができれば、先回りした経路誘導や信号制御などにより交通の流れが円滑化され、渋滞発生の防止に繋がると社会からの期待が高まっている。
交通渋滞は発生時間帯、発生場所、長さなどの変動が大きいことに加え、一度発生すると交通の状況が急激に変化するため、その有無や長さを正確に予測するAIの実現は困難な課題とされてきた。さらに、渋滞予測AIの実用化には渋滞予測の理由が明らかになるといったAIの解釈性と信頼性を構築する必要がある。
交通工学の知見や深層学習とビッグデータを融合
そこで研究グループでは、長年のフィールド経験を踏まえた交通工学の知見と、近年注目を集める深層学習と交通ビッグデータを融合させることで、高精度かつ解釈性の高い新たな時空間AI技術「QTNN」の実現に取り組んだ。 QTNNは、警視庁が取り組むAIとビッグデータを活用した交通管制システムの高度化プロジェクトにおいて検討されている。さらには、信号制御、道路工事、事故発生などに関する情報を柔軟に活用して渋滞長を予測する、都市の基盤となる時空間AI技術の実現を目指している。
〈研究者のコメント〉
世界中で巻き起こる苛烈なAI研究競争において、日本が得意とする精細なデータ計測技術とドメインへの綿密な知見は、最先端の時空間AI技術と掛け合わせることで世界に先駆ける大きなアドバンテージとなりえると考えます。
本研究により、交通渋滞問題に対する新たな解決策が構想され、都市の持続可能性に大きく貢献することを期待します。我々は、今後も信頼性と安全性の高いAI技術の可能性を追求し続けます。