北京オリンピックでの陸上の「華」400メートルリレー出場選手のドーピングが明らかになり、銅から銀へ繰り上げられた日本をはじめ、国際的に大きな衝撃、というよりむしろ後味の悪い気持ちにさせられたのが本当のところではないだろうか。
ドーピングの問題は、かぜ薬にも禁止薬物がはいっていることなどから、少し前までは「ついうっかり」という弁明もあったが、昨今のロシア陸上界の組織的なドーピング疑惑、また、今回のジャマイカのオリンピック選手についてもかねて疑惑が取り沙汰されていたのだそうだ。少し大げさかも知れないが、世界的規模で、アスリートやサポートスタッフのみならず、一般市民、特に若い世代への幅広い教育・研修活動、そして、巧妙化するドーピングの検出方法の開発が課題となっている。現在、オリンピック選手の検体が10年間保存されることになっているのも、開催時には解明できなくても後の科学技術の進展を踏まえ研究成果によって不正を暴こうという理念に基づいている。
世界に誇るスポーツ立国へ
わが国はこれまでユネスコ「スポーツにおけるドーピングの防止に関する国際規約」を踏まえ、「国の役割」であるドーピングの防止に関する教育・研修・研究を行っており、国際的にも高い評価を受けてきた。
また、世界ドーピング防止機構(WADA)のアジア地域を代表する常任理事国として、ラグビーワールドカップ2019やオリンピック・パラリンピック2020年東京大会などの開催国として、2015年1月改訂の世界ドーピング防止規程や、WADA・IOCなどからの国際的な要請に応じ、ドーピングのないクリーンな環境を整備することが求められている。
わが国において、ドーピングゼロを実現することは、五輪2020年東京大会の成功の鍵であり、さらに、クリーンな日本を世界へ発信し、ドーピングの撲滅を牽引していくことで、2020年を超えて、世界に誇るスポーツ立国としての地位を確固たるものとすることが期待されている。
このため、鈴木大地長官を先頭とするスポーツ庁では新年度から、ドーピング防止教育事業、ドーピング防止研修事業、ドーピング検査技術研究開発事業に積極的に取り組んでいく方針を固めている。
ドーピング防止教育では、ユース教育強化の一環として、より分かりやすい教材の開発や指導者の養成によってアスリートだけでなく、コーチ、親・兄弟などへの教育強化を図ることにしている。初中教育から高等教育まで、学校教育課程におけるスポーツの価値教育を促進するため、教材・指導マニュアル開発、モデル校の設定や認定制度の導入にも取り組む。
ドーピング防止研修に関しては、ドーピング検査員をはじめ、医師、薬剤師などの専門家育成によるクリーンなアスリートを守る統合的アプローチに取り組む。具体的にはドーピング検査員のコミュニケーション能力や多言語強化の強化、また、2018平昌、2020東京、2022北京など各大会を通じて国際ドーピング検査員の育成強化を図る。さらに、医師、薬剤師らへの専門学習用アプリの開発・講習会などを実施することによってアスリートの禁止物質のうっかり摂取を防止する。
ドーピング検査技術研究開発では、クリーンなアスリートを守る精神的・身体的負担のない検査体制の構築を実現する。例えば、最先端の乾燥血液スポット分析の導入によりアスリートの精神的・身体的ストレス削減、検査コスト削減を図る。また、進化するドーピングへの対応検出手法の開発によって、外因性物質を直接特定する効率的で高質な分析の実現によって、新出手法のなどへの対応を図る。さらに、新しい国際的なドーピング防止体制の構築に向けた議論を行い、研究開発手法などの世界スタンダードの確立を目指す。