農研機構は、生産現場で農業者が使いやすいデータ連携を実現するため、令和3年度に整備した農機OpenAPIの仕様を拡充するとともに、生産現場で実施した有効性検証の結果を「令和4年度成果報告書」としてとりまとめて公開した。さらに、データ連携の効果を農業者が実感できるよう優先的に取り組むべき事項等を「ユースケース事例集」として公開した。
これらの成果については、メーカー間の垣根を超えたデータ連携の実現を加速化し、農業者によるデータ利活用の推進につながるとして期待が寄せられている。
今後の農業の鍵となるスマート 農業の導入に関する動き
農業者の高齢化や労働力不足に対応しつつ生産性を向上させるには、ICT・ロボット技術等を活用したスマート農業の導入が鍵となる。スマート農業については、作業の自動化や省力化に加え、農業データの活用による効率的な農業経営や技術継承の円滑化などの効果が期待されている。
また、スマート農業の普及に伴い、農業の現場からは、メーカー間の垣根を超えた様々な農機・機器のデータ連携を通じた、一元的なデータ管理・分析と農業経営への活用に対するニーズが高まっている。
このため、農林水産省は、農機メーカー、ICTベンダー、農業者、学識経験者が参画する検討会を設置し、異なる農機・機器が取得するデータの連携に向けたルールづくりに関する検討を行い、令和3年2月に「農業分野におけるオープンAPI整備に関するガイドラインver1.0」を策定した。
さらに、こうした背景を踏まえ、農林水産省「スマート農業の総合推進対策のうち農林水産データ管理・活用基盤強化事業」では、農業データを連携・共有するための環境整備の支援を通じてデータを活用した農業を推進することとした。
農機API共通化コンソーシアム設立 分野ごとのワーキンググループで検討
農研機構では、「農業情報創成・流通促進戦略に係る標準化ロードマップ(令和2年5月)」、「農業分野におけるオープンAPI整備に関するガイドラインver1.0(令和3年2月)」、「農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドライン(令和2年3月)」の趣旨を踏まえつつ、農業分野でのデータ連携を推進するため、農機・機器メーカー、ICTベンダー、業界団体、研究機関等からなる、農機API共通化コンソーシアムを令和3年4月に設立した。
コンソーシアムでは、「ほ場農業機械WG(ワーキンググループ)」、「穀物乾燥調製施設WG」、「施設園芸機器WG」を設置し、分野ごとに検討を進めており、ほ場農業機械、穀物循環式乾燥機、施設園芸機器(環境データ)のAPIの標準的な仕様(標準API仕様)が定められるなど、成果が得られている。
さらに、生産現場で農業者が使いやすいデータ連携を実現するため、農業者、ICTベンダー、学識経験者、業界団体等からなる事業検討委員会を設け、各WGへの助言・指導を行った。
令和4年度の成果をとりまとめ
令和4年度の取組では、標準API仕様を充実させて改訂するとともに、現地実証を通じてその有効性の検証を行った。
また、コンソーシアムでは、新たに「農業データ連携将来像検討WG(将来像WG)」を設置。「データ連携で切り開かれる未来(将来像)」、「成功に向けたステップ(ロードマップ)」、「ユースケース」の検討・整理を行った。
ユースケースの検討では、①先進的農業者が既に取り組んでいるユースケースを大多数の農業者が簡便に実現できるよう、オープンAPIの整備を進める ②データ利活用の効果を感じる農業者が一定規模に達すれば、データ利活用が加速度的に進み、また、農業者同士の連携により新たなユースケースの創出を実現する ― といった考えを基本とした。
こうした活動を受け、今回、令和4年度の成果等がとりまとめられ、公表された。
具体的な成果・ポイント
〈令和4年度成果報告書〉
事業成果の要約版として、各種成果物の位置付け、成果の概要、コンソーシアムの活動記録等についてとりまとめたもの。令和4年度は新たに「令和3年度に策定したAPIの生産現場での有効性の検証」や「農業分野におけるデータ連携で切り開かれる未来(将来像)の検討」について報告している。
〈ユースケース事例集〉
関係者へのヒアリングや先行事例調査を踏まえ、将来像WGで策定した「データ連携で切り開かれる未来(将来像)」の実現に向け、優先的に取り組むべき項目と中長期的に取り組むべき項目に分けてユースケースをとりまとめたもの。
〈農機OpenAPI仕様書〉
農機・機器データの利用しやすさの向上、農機・機器メーカーの迅速なAPI実装を支援するために作成されたもの。令和3年度に策定したほ場農業機械編、穀物循環式乾燥機編、施設園芸機器(環境データ)編のデータ項目を充実した内容に改訂し、新たに穀物検査機器編を追加した。農機・機器メーカーが標準仕様に沿ってAPIを実装することで、ICTベンダーはメーカー間の仕様の違いを気にすることなく、APIで取得できるデータ項目に関する定義の一貫性を担保することができる。これにより、農機・機器データの収集・分析が容易になり、農業者の利便性の向上やソフトウェアの高機能化につながると期待されている。
データ利活用に向けた環境整備を 業界関係者と一体となって推進
コンソーシアムでは、成果の普及に努めるとともに、農業者が農機・機器の各種データを容易に利用できるよう、業界関係者が一体となって、オープンAPIに対応した機器の種類やデータ項目の拡充等、データ利活用に向けた各種環境整備に取り組んでいく方針だ。
今後は農機・機器メーカー、ICTベンダー、業界団体、研究機関、行政機関等が将来像WGで合意した「データ連携で切り開かれる未来(将来像)」の早期の実現に向けて、密接な連携協力の下で取組を加速させることが期待されている。