2023年7月11日 データ駆動型「遠隔営農支援プロジェクト」開始 専門家やAIとの連携により生産者支援を実現

(国研)農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)と東日本電信電話株式会社(NTT東日本)、株式会社NTTアグリテクノロジーは共同で、農研機構の専門家が有する知見や農業データ連携基盤「WAGRI」と、NTT東日本とNTTアグリテクノロジーが有するICTを活用した遠隔営農支援の実績やノウハウを踏まえた仕組みを組み合わせることで、データ駆動型の「遠隔営農支援プロジェクト」の全国展開を推進していくことを発表した。最初の実証地として、取組の契機となった株式会社みらい共創ファーム秋田(秋田県南秋田郡大潟村)のほ場でタマネギの生産における遠隔営農支援が進められている。

農業分野の近年の状況をみると、国内では急速な農業従事者の減少・高齢化に伴う担い手の確保や技術継承、世界では感染症・地政学リスク、気候変動の深刻化などによる食の安定供給に対するリスクが課題となっている。

こうした課題を踏まえ、農研機構、NTT東日本、NTTアグリテクノロジーの3者は、2020年2月に連携協定を締結し、データ駆動型で生産性向上や省力化、リスクの低減を実現することで、地域農業の発展や食の安定供給に寄与する各種プロジェクトを協働で進めてきた。

このプロジェクトを通して、生産者や地域の収益力、生産性の向上を目指し、新たな産地形成や品種に取り組む事例が増加してきている。その実現に向け、農業生産の現場では、多様な作物と環境条件、市況等を考慮した的確な判断等が重要になるが、ベテラン生産者の減少・高齢化が急速に進んでおり、その技術の継承・指導を現場で適宜行うためには多大な労力が必要となる。そのため、品種特性や栽培技術などに知見のある専門家が遠隔で効率的・効果的に営農を支援する新たな仕組みの構築に期待が寄せられている。また、近い将来、こうした仕組みがデータやAIをさらに活用する〝新たな社会実装ツール〟として、最新技術を正確に、早く、省力的かつ低コストで現場に伝えることで、新規参入と定着をもたらすことが見込まれる。

農研機構では、品種開発、栽培技術などに知見のある専門人材を有しており、WAGRIをはじめデータ駆動型農業技術の開発を進めている。NTT東日本、NTTアグリテクノロジーでは、ICTを活用し、映像やセンサーデータによって遠隔地にいる専門家が生産現場の環境をリアルタイムに把握するとともに、蓄積したデータを分析し的確な支援・指導を双方向で行う仕組みを保有・提供している。今回開始された「遠隔営農支援プロジェクト」では、両者が協働することで、「地域における農業の成長産業化」、「食の安定供給」を実現するとしている。

 

プロジェクトの概要・ポイント

遠隔営農支援は、生産者の農場や作物の映像・環境データを遠隔にいる専門家とリアルタイムに共有し、当該農場の土壌、気象、生育情報、作業履歴等のデータに基づき農研機構の標準作業手順書(SOP)に即した支援・指導を双方向のコミュニケーションにより行う。

プロジェクトでは、露地栽培を重点的に取り扱う方針としている。広域かつ電源の確保が難しい農場をエリアカバーできるネットワーク(新しい無線LAN規格であるWi‐Fi HaLow〈IEEE802.11ah〉など)やセンサーが必要であり、技術的な難度が高いことに加え、気象や土地・土壌条件による生育や病害の差が大きく、データを活用した栽培技術の導入により、大きな生産性向上の余地が見込まれることがその理由だ。

プロジェクトの第1弾として、令和5~6年度に「戦略的スマート農業技術の実証・実装(農林水産省事業)」も活用して、タマネギの新たな産地形成が進められている秋田県大潟村の株式会社みらい共創ファーム秋田のほ場で実証・開発を行うとしている。農研機構の専門家が遠隔からタマネギ栽培の支援・指導を行い、効果検証、技術の改善を図る。支援・指導にはNTT東日本、NTTアグリテクノロジーが提供する遠隔営農支援の仕組みを活用し、みらい共創ファーム秋田の生産者と専門家がリアルタイムで生産現場の映像やデータを共有し情報交換を行う。また、WAGRIのAPI(Application Programming Interface:複数のアプリケーションなどを接続するための仕組み)も活用することで、農研機構のタマネギ生産SOPに即した技術的助言を行い、大潟村での新規就農者の収量が2~3t/10aであるところを、4t/10aのタマネギ生産を安定的に実現することを目指すとしている。

第2段階では、AIも実装することで、気象情報や生育予測を踏まえた栽培作業計画、発生予察を踏まえた病害虫防除計画、市場動態予測を踏まえた出荷計画等を生産者に自動提示する仕組みも検討していくことが考えられている。これにより、支援・指導を行う専門家の負担が軽減されることが期待される。

一例として、新規就農者には分かりづらい病虫害への対応については、病虫害診断サービスAPIを使用することで、どのような病虫害かを診断した上でその特性や対応する農薬の情報を得ることができる。また、生育予測APIでは、定植日と気象APIで得た気象予報データを使って、いつ頃どれくらい収穫できるかをシミュレーションすることができ、営農計画に反映することができる。これらのAIも併用することで、経験の浅い、新しい産地の新しい就農者に対して〝新たな社会実装ツール〟の活用を通して熟練の技術継承に取り組むとしている。

また、NTT東日本の地域エッジ(REIWAプロジェクト)への本プロジェクトのデータの実装や、NTTグループが多くの企業とともに推進している光を中心とした次世代コミュニケーション基盤(IOWN)の活用の検討についても進められる。これにより、地域の大切な農業データの安心安全な活用、農場にあるロボット等を遠隔から低遅延でオペレーションすることや、環境負荷の低減につなげていくとしている。

今後の方向性としては、大潟村での取組を踏まえ、遠隔営農支援の適用地域や対象品目の拡大を通して3年を目途に全国展開を進めていくことが考えられている。

 

取組のイメージ(プレスリリースより)


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