◆ 新たな人口推計のインパクト
4月26日、厚生労働省から「日本の将来推計人口(令和5年推計)」が発表されました。【高野龍昭】
これは5年ごとに推計・公表されるもの。今回は、2020年の国勢調査の確定数を出発点として全国の将来人口が推計され、2070年までのわが国全体の詳細なデータが公表されています。
人口推計に関しては最も権威のあるものであり、このデータは様々な政策検討や官民の研究、民間企業の経営などに利活用されます。
本稿ではこれをもとに、介護保険制度の未来について考えてみたいと思います。一言で言えば、高齢者介護・高齢者福祉に関係する者として、相当に衝撃的なデータだと感じています。
◆ 2070年の「わが国の姿」
今回の推計データ(中位推計)の中で、私が特に注目した点は表の通りです。
推計データでは、約50年後にわが国の人口は3割ほど減少すると見込まれています。
それを年齢階層別にみると、生産年齢人口が4割ほど減少する一方で、老年人口は微減にとどまると示されています。そして「少産多死社会」の傾向は拡大し、1年間に100万人を超える「人口の社会減」が起きることも示されています。
合計特殊出生率は維持傾向にみえますが、出産する年代の人口が減少することから出生数は大きく減少します。
一方、生産年齢人口と老年人口を比較してみると、2020年は2.1対1であるのに対し、2070年には1.3対1となります。これは、現役世代2人で高齢者1人を支えている今の社会が、約50年後には現役世代1.3人で高齢者1人を支える社会になることを意味します。
これらは、今のままでは介護保険制度が危機的な状況に陥るとともに、高齢者分野の社会保障全体が成り立たなくなる懸念を示していると言ってよいでしょう。
2070年と言えば、現在の40歳代の人の多くはおそらく存命しているでしょうし、20歳代の人は後期高齢者となって要介護リスクに直面する時期です。そう遠い未来というわけではありません。
◆ 85歳以上人口のみが増加
今回の推計データ(中位推計)の詳細な数値を使い、老年人口をさらに3区分(65~74歳・75~84歳・85歳以上)して示したものが図1・図2です。これをみると、現役世代の減少が激しいことが分かる一方で、高齢者人口は維持されていき、2070年には人口の高齢化率が38.7%に達することも分かります。
私は介護保険制度の今後を考えるとき、かねてから85歳以上の人口の推移に注目していました。それは、その年代以上の高齢者の要介護認定率が約6割に達するからです。
そのうえで、かねてから私は、2017年に発表されていた従来の推計データをもとに、「介護保険制度にとっての『2040年問題』は『85歳以上の人口のみが増え続けること』である」「2040年が85歳以上人口のピークであり、そこを乗り越えられるか否かを検討しよう」と主張してきました。
しかし、今回の推計データからは、こうした私の主張が少し誤っていることが明らかになりました。それを図3に示します。この図は、2020年の人口を100として、年齢階層別の増減を指数で表したものです。
これをみると、2070年に向かって、ほとんどの年代の人口が減少局面にある一方、85歳以上の人口は2040年にひとまずピークを迎えた後に再び増加し、2065年にピークを迎えることが分かります。75~84歳の人口は横ばいから漸減に転じ、65~74歳の前期高齢者は漸減が続きます。
要介護認定率が6割程度と高い85歳以上の人口が増加し続けるということは、介護保険制度の財源や人材の確保が一層必要になっていくということです。しかし、現役世代の人口や前期高齢者の人口が減少するということは、それらの確保が一層困難になることを意味します。
推計データは、2065年から2070年にかけて、85歳以上の人口は現在の約1.9倍になると同時に、15~64歳の生産年齢人口は現在よりもおよそ4割減少することを示しています。この時期の介護保険制度は、どのようにして運営することができるのでしょうか。私は特にこのことに大きな懸念を抱いています。
人口減少、または生産年齢人口の減少は、社会保障の元手となる税や保険料などの確保、すなわち「所得の再分配」が難しくなることにもつながります。
◆ 介護保険制度の行方
今回の推計データから考えると、現行のシステムのままでは、中・長期的に介護保険制度が維持できない、そして介護人材確保が困難になることが明らかだと言ってよいでしょう。
つまり、現行の財政負担のシステムを続ける限り、給付の見直し・縮小や利用者負担増は必至です。なにより、介護人材の確保はどのような方策を使っても困難になっていくことは間違いありません。
この意味で、今後の介護保険制度は一層厳しい局面を迎えると同時に、国民負担のあり方が問われなければならないものと考えられます。