(国研)森林総合研究所は、岡山理科大学と共同で、サクラの4つの種間雑種の学名を、エドヒガン等の親種の組み合わせで整理し、Cerasus×yedonsisという学名は、エドヒガンとオオシマザクラの種間雑種名として用いるべきことを示した。また、韓国済州島のエイシュウザクラが〝染井吉野〟と異なり、エドヒガンとオオヤマザクラの種間雑種(C.×nudiflora)であることを明らかにした。
バラ科サクラ属(Cerasus)の樹木は、日本に9種が自生するほか、数多くの栽培品種がある。中でも「染井吉野」は全国に植樹され、日本を代表する栽培品種となっている。しかし、サクラ類については、国際的に広く受け入れられている分類体系はなかった。
このため、韓国の済州島産のエイシュウザクラが染井吉野の起源とする説が示されるなど、サクラの分類に誤解や混乱が見られていた。
そこで、研究グループは、染井吉野に関連する種間雑種の分類体系について、形態学や集団遺伝学、分子系統学の最新の知見を基に検討を行った。
適用すべき学名を明らかに
研究では、染井吉野とそれに関連するサクラの学名について、記載論文や学名の基準となるタイプ標本をもとに分類の検討を行った。その中で、これまでタイプ標本が指定されていなかった学名には、新たにレクトタイプ(選定基準資料)やネオタイプ(新基準資料)を指定した。次に、タイプ標本、またはタイプ標本が採取された原木からクローン増殖された個体を用いて形態観察と核DNAの分析を実施し、その親種について検討を行った。
その結果、分析対象としたサクラは、いずれもエドヒガンと4種のサクラ(ヤマザクラ・カスミザクラ・オオヤマザクラ・オオシマザクラ)との種間雑種と認識された。また、これらの種間雑種には、それぞれ「C.×sacra(モチヅキザクラ)」、「C.×kashioensis(カシオザクラ)」、「C.×nudiflora(エイシュウザクラ)」、「C.×yedoensis」という学名を適用するべきことが明らかになった。
済州島のエイシュウザクラは、これまでC.yedoensisの変種として扱われ、染井吉野の起源とする説が唱えられてきた。しかし、エイシュウザクラはエドヒガンとオオヤマザクラの種間雑種のC.×nudifloraであり、染井吉野が含まれるエドヒガンとオオシマザクラの種間雑種とは親種の組み合わせが異なることが分かった。
正しい理解が進むことに期待
生物について、正しく認識し、他者にも正確に伝えるためには、同じ生物に同じ名前を用いることが重要であり、国際的に通用する学名をまとめた分類体系が必要となる。しかし、これまでサクラの種間雑種は、形態から的確に分類することが難しく、様々なことが主張されてきた。今回発表された論文で4つの種間雑種の学名とその親種の組み合わせが明確に示され、混乱していた分類体系が整理されたが、さらにこの分類体系が国際的に認められたことで、サクラの分類について正しい理解が進むことが期待されている。