2023年3月1日 悠久巨樹と人とのつながり 環境研研究員がDB用いて世界初解明

屋久島の杉など、古くから人々は巨樹から〝パワー〟を得てきたが、国立環境学研究所の中臺亮介特別研究員は、なぜ人類が悠久を生きる巨樹に充足感や幸福感などを感じるのかという謎に対して、科学的な試みを行った。環境研生物多様性センターが提供する「巨樹・巨木林データベース」に集積された日本列島全域の巨樹約3.9万本の大規模データを解析し、人と巨樹のつながりと駆動要因を解明。人が太さや推定樹齢といった巨樹の特性、さらにその背後に存在する気候・地理要因により駆動されている可能性を世界で初めて明らかにした。

この研究により、今後、人と生物多様性の精神的なつながりと駆動要因の解明が進み、人間社会での役割や重要性がわからないまま失われていく精神的な自然の恩恵の消失防止に貢献することが期待される。

 

北に分布するほど信仰されやすい

この研究では、巨樹が提供する精神的な生態系サービスが、気候や地理分布の影響を受けた上での各巨樹の特性に応じて駆動されているかどうかを検証することを目指した。さらに、気候や地理分布が巨樹と人間社会との関係を変化させることによって、精神的な生態系サービスに直接影響を及ぼしている可能性も検討した。

この研究では、①太く、樹齢が長い巨樹ほど、信仰の対象となりやすく、固有名称を持ちやすくなる(巨樹の特性が精神的な生態系サービスに影響する)、②気温が低く、降水量が多い地域の巨樹ほど、太く、樹齢は長くなる(マクロ生態学的プロセスが巨樹の性質に影響を与える)などの仮設を用いて行った。さらに、③分布する緯度や標高、年平均気温や降水量の違いが、巨樹の信仰の対象となりやすさと固有名称の持ちやすさに影響を与える(マクロ生態学的プロセスが精神的な生態系サービスに影響を与える)ことも、仮設として研究を進めた。

データ分析の結果、幹周囲長は推定樹齢と年間降水量から正の影響、緯度・標高と年平均気温に負の影響を受け、また、推定樹齢は年平均気温から負の影響を受けていた。また、信仰の対象となる確率と固有名称を持つ確率は、いずれも幹周囲長と巨樹の樹齢の両方と正の相関があり、「太く、推定樹齢が長いほど、名前を持ちやすく、信仰の対象となりやすい」ことがわかった。

また、信仰の対象となる確率は、緯度と正の相関があり、年平均気温と年降水量と負の相関が確認され、「気温が低く、雨が少なく、より北に分布するほど、信仰されやすい」ことが判明。さらに、固有名称を持つ確率は、緯度、標高、年平均気温と正の相関、年降水量と負の相関が示されたことから、「気温が暖かく、雨が少なく、標高が高く、より北に分布するほど、名前を持ちやすい」といったことも明らかとなった。

こうしたことから、マクロ生態学的プロセスに関連する要因は巨樹から得られる精神的な生態系サービスに直接的、または、巨樹の特性を介して間接的に影響を与えることがわかった。この研究の結果は、マクロ生態学的なプロセス、巨樹、精神的な生態系サービスの提供の繋がりを検証するために、三つの仮説とほとんど一致するものだった。精神的な生態系サービスの駆動要因については、自然がどのようなプロセスで生態系サービスを提供しているのかが不明であったため、未だ研究例は少ない状況にあったが、この研究では大規模に収集された巨樹・巨木林データベースを用いることで初めて検証が可能となった。

研究での巨樹の太さと樹齢は、精神的な生態系サービスの提供を駆動するプロセスを明らかにする上で、単純でわかりやすく理想的な特性で、今後他の系でも、精神的な生態系サービスの駆動要因を考える上で重要な知見になると考えられるという。


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