2023年2月14日 【北大】放流しても魚は増えない~放流は河川の魚類群集に長期的な悪影響をもたらすことを解明~

放流しても、魚は増えない‐。北海道大学助教らの研究グループは、こうしたある意味ショッキングな研究発表を発表した。小川に稚魚を放つ子供たちの行為は無駄なのか?。理論・実証分析の双方から、河川での放流が魚類群集に与える影響を検証したもので、結論は「放流は種内・種間競争の激化を促し、多くの場合で群集構成種を長期的に減らす」という。魚類自然の回復には、河川等の生息環境の改善といった別の抜本的対策が求められることを示唆している。もちろん、子どもたちの稚魚放流は、自然の大事にしようというメッセージという面で意義は大きいから、今回の研究成果とは趣旨が異なるのでご安心を。

この研究を行ったのは、北大大学院地球環境科学研究院の先崎理之助教と、ノースカロライナ大学グリーンズボロ校の照井 慧助教、北海道立総合研究機構の卜部浩一研究主幹、国立極地研究所(当時)の西沢文吾氏。魚のふ化放流は多くの場合で放流対象種を増やす効果はなく、その種を含む生物群集を減らすことを明らかにした。

飼育下で繁殖させた在来種を野外に放す試みは、野外個体群の増強を目的としてさまざまな動植物で行われている。特に、漁業対象種のふ化放流は、国内外に広く普及している。一方、こうした放流では自然界には生じえない規模の大量の稚魚を放つため、生態系のバランスを損ね、放流対象種を含む魚類群集全体に長期的な悪影響を及ぼす可能性があることが懸念されている。

そこで研究チームは、シミュレーションによる理論分析と全道の保護水面河川での過去21年の魚類群集データによる実証分析を行い、放流が河川の魚類群集に与える影響を検証した。

実証分析で対象とした保護水面河川には、放流が行われていない河川とサクラマスの放流がさまざまな規模で行われている河川が含まれる。これらの分析の結果、放流は種内・種間競争の激化を促すことで、放流対象種の自然繁殖を抑制し、さらに他種を排除する作用を持つため、長期的に魚類群集全体の種数や密度を低下させることが明らかになった。

今回の研究結果は、持続可能な魚類の資源管理や生物多様性保全に対する放流の効果は限定的であり、生息環境の復元などの別の抜本的対策が求められることを示している。

この研究成果は、2月7日公開のProceedings of the National Academy of Sciences誌に掲載された。


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