(国研)量子科学技術研究開発機構量子ビーム科学部門高崎量子応用研究所プロジェクト「RIイメージング研究」の三好悠太主任研究員と河地有木プロジェクトリーダーは、(国研)農業・食品産業技術総合研究機構作物研究部門作物デザイン開発グループの相馬史幸研究員と宇賀優作グループ長らと共同で、干ばつに見舞われたイネが水を求めて地中深くに伸ばした根に選択的に炭素栄養を送ろうとする生命活動を映像として捉えることに世界で初めて成功した。
干ばつに適応するイネの生存戦略を解明
毎年頻発する干ばつによって食糧需給は世界各地でひっ迫している。こうした中、研究グループでは、干ばつ下で生育できる植物の強靭さの仕組みを解明し、干ばつに強い作物、特にイネの開発を進めている。
干ばつに強い陸稲などのイネ品種は地中深くまで伸びる太い根を持つことが知られている。そこで今回の研究では、「干ばつ時に根がどのように水分を獲得するのか」について、根における炭素栄養の分配の仕組みから解明を進めた。その中で、農研機構が有する地中の根の構造を可視化するX線CT技術と、量研が得意とする植物体内の栄養元素の動きを可視化する植物ポジトロン(陽電子)イメージング技術を融合し、地中に隠れた根の機能を探る新たなRI(ラジオアイソトープ)イメージング技術を開発した。
さらに、この技術を用いて、イネの根が干ばつ下に置かれた土壌環境と、水分が十分に存在する土壌環境下の炭素栄養の動きを観察・比較した。その結果、干ばつ下では地中深くに存在する水分を求めて下方向に伸びる根に栄養を分配するのに対し、土壌中の水分が増えると地表近くの横方向に展開する根に分配することが分かった。水分状況に応じて栄養の分配先を選択的に素早く切り替えるという仕組みを持つ、イネの干ばつを生き抜く戦略の一端が明らかになった。
環境ストレスに頑健な作物生産に期待
今回の研究で開発された技術は、多様な環境変化に適応する植物の生存戦略を詳細に解明する強力なツールである。この成果を、環境ストレスに適応したイネの開発に活かすことで、持続的かつ安定した作物生産が可能な社会の実現に貢献することが期待される。