情報・システム研究機構国立情報学研究所(NII)は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究の一環として、順天堂大学、名古屋大学と共同で、COVID-19肺炎CT画像サーベイランスシステムを開発した。同システムはCOVID-19のCT画像所見を指標としているため、発症の有無に関わらずウイルス陽性者を計測する PCR・抗原検査とは違って肺炎患者の実態をリアルタイムで追跡することが可能。
新型コロナウイルス感染によって引き起こされる感染症COVID-19のパンデミックは、医療サービスを供給するリソースの逼迫を招いた。これはCOVID‐19患者への対応だけでなく、それ以外の受診者へも深刻な医療サービス水準の低下を引き起こした。
このような世界的な緊急事態では、平常時と同程度の医療サービス水準の維持に加えて、緊急事態に対応した適切な医療サービスの迅速な供給が求められる。医療サービスを供給する第一のリソースである医師や看護師、技師などの人的資源を多数、かつ即座に確保することは困難。
そこで、ICTを活用した医療支援技術を速やかに開発して医療現場に迅速に投入できれば、限られた人的資源での対応状況の改善が見込めるようになる。例えば、日本全国の医療機関で撮影されているエックス線CT画像からCOVID‐19肺炎所見を自動判定し、肺炎患者の日々の増減を自動で集計するシステムがあれば、今後必要となる人的資源の予測と確保ができる。このようなシステムを緊急時に迅速に開発するためには、画像を含めた医療情報を全国の医療機関から一元的に蓄積し活用するICTプラットフォームを常時稼働したうえで、平常時からICTによる医療支援技術を研究開発していなければ実現できない。
NIIでは、このようなAIによる医療支援技術をCOVID‐19パンデミック以前の平常時から研究開発している。緊急事態に必要な医療支援を速やかに臨床現場へ提供できるように、ICTを活用した医療情報の蓄積と機械学習によるデータ解析の機能を統合したプラットフォームであるクラウド基盤を2017年に整備し、今日まで継続して運用している。
このプラットフォーム上で、NIIが順天堂大と名大と共同で整備したCOVID‐19肺炎CT画像の解析基盤と、その基盤を利用して研究開発した肺炎典型度を自動識別するCOVID-19診断補助AIをすでに開発している。
順天堂大では、日本医学放射線学会が開発して管理・運営している日本医用画像データベース(J-MID)に網羅的に蓄積したCT画像のうち、PCR検査によってCOVID‐19と判明した症例を選別し、北米放射線学会(RSNA)が規定するCOVID‐19肺炎の典型度分類に従ってCT画像を評価した。
現在までに、画像と診断情報(アノテーション)で構成するCOVID-19肺炎症例のデータ計1553例を蓄積している。これらはNIIが構築・運⽤する学術研究専用の情報通信ネットワーク「SINET」を通じてNIIのクラウド基盤に収集され、NIIではこのデータを用いてAI解析が迅速に行えるように必要な情報を抽出するワークフローを確立。COVID‐19肺炎のAI解析に最適化された学習データセットとして整備した。
名大では、この学習データセットを用いてCT画像からのRSNA典型度自動識別を行うCOVID‐19診断補助AIを開発。開発した手法は学習データが20例と少ない場合でも従来手法より高い精度での肺野セグメンテーションが可能だった。
今回の研究開発では、判別AIに3D Convolutional Neural Network(3D CNN⦆を用いて自動判別を新たに実現した。3D CNNの実現にあたっては、CT画像のAxial、Coronal、Sagittal断面それぞれで並列的に画像特徴抽出を行い、それらを統合して3D画像の判別を行う機構を独自に開発し、約83%の分類精度を実現した。