新型コロナウイルスやインフルエンザの流行抑制のため、ワクチン接種の機会が増えたが、注射は苦手、という人も多い。医療処置中の痛みや恐怖を軽減できれば、広く人々に歓迎されるに違いない。看護や介護などの現場では、人の痛みや不安を和らげるために、その人の腕や背中などをなでたりさすったりすることが日常的に行われている。〝ソーシャルタッチ〟と呼ばれるこうした人同士の接触がもたらす効果は、さまざまな学問領域で報告されており、近年では人とロボットの間のソーシャルタッチも研究され始めている。
筑波大研究チームは、ユーザーが手にはめて握ることにより、痛みや恐怖を和らげられるウェアラブルロボットの開発を進めており、今回、この効果を初めて定量的に確認した。実験に使用したロボットのプロトタイプは柔らかな素材で覆われており、独立して膨張・収縮を制御できる三つのエアバッグを内蔵している。これにより、握ることに加え、外から大きな手で握られている感覚などをユーザーに与えることができる。
実験では、参加者に利き手でプロトタイプを握ってもらう一方、反対側の腕に熱刺激装置から痛みを加えた。さらに、その間に感じる痛みや痛みを加える前後の不安度合などを口頭聴取・アンケート・唾液分析により検証した。
参加者のうち66人から得られたデータを分析した。口頭聴取の結果から、ロボットを着用していた条件では、痛み値が有意に減少していたことが分かった。さらに、ユーザーの握りに反応してロボットが握り返す動作を行う条件では、唾液中のオキシトシンが減少する傾向がみられた。
オキシトシンは、人のストレスレベルの低下に沿って減少することが知られているホルモンです。これらのほか、8種類の具体的注射体験について尋ねるアンケート結果から、実験参加後に参加者の注射に対する恐怖心が有意に低下したことも分かった。
この研究は、筑波大学システム情報系知能機能工学域の田中文英准教授ら研究グループが行った。
研究チームは今後、こうした実空間上のロボットを仮想現実(VR)/拡張現実(AR)など仮想世界上の手法と融合し、より広い場面や用途で人の痛みや不安を和らげていくことを目指す。