農研機構は、これまで明らかになっていなかったウンシュウミカンの親品種をDNA鑑定で「キシュウミカン」と「クネンボ」と推定した。この成果を元に、ウンシュウミカンの優れた形質について遺伝子レベルでの解明が大きく進み、新規DNAマーカーの開発などを通じてカンキツの品種改良が効率化することが期待されている。
ウンシュウミカンは明治時代に入ってから栽培が本格化し、わが国のカンキツ出荷量の約7割(平成25年)を占める最重要品種である。日本原産と推定されているが、その由来については諸説あり、不明となっていた。
また、ウンシュウミカンには、機能性関与成分であるβ‐クリプトキサンチンが多く含まれている。農研機構では、これまでβ‐クリプトキサンチン高含有に関連する遺伝子の由来について研究を進めてきたが、その過程で、これまで品種改良や品種識別用に開発してきた多数のDNAマーカーを利用し、わが国の主要な在来品種を含む67品種・系統のカンキツについて、ウンシュウミカンとの親子鑑定を行った。
今回の研究では、206種類のSNPマーカー(DNAマーカーの一種)を用いて、67品種・系統のカンキツについてウンシュウミカンとの親子関係の鑑定が行われた。その結果、日本の明治中期以前の主要カンキツであったキシュウミカンと、キシュウミカンとともに江戸時代までの主要カンキツであったクネンボが、ウンシュウミカンの両親であると推定された。
また、キシュウミカンとクネンボについて、種子親(母親)か花粉親(父親)かを鑑定できるCAPSマーカー(DNAマーカーの一種)を用いて鑑定を実施した結果、キシュウミカンが種子親、クネンボが花粉親と推定された。
ウンシュウミカンは、美味しくて果皮がむきやすく、種子も少なく食べやすい。さらに、それだけでなく、β‐クリプトキサンチンを多く含むカンキツである。また、わが国の気候に適し、高収量で病害虫に強く、栽培のしやすさにも優れている。そのため、ウンシュウミカンのように、おいしくて食べやすく、栽培しやすく、機能性関与成分を多く含む新しいカンキツ品種に対するニーズが高まっている。
今回の成果により、ウンシュウミカンの優れた形質がキシュウミカンやクネンボに由来することが明らかになったが、今後、これら3品種の形質とゲノム情報を調べることで、ウンシュウミカンの優れた形質に関わる遺伝子の解明が進むと考えられている。
例をあげると、β‐クリプトキサンチンの生合成には複数の遺伝子が関わっており、それぞれ種子親と花粉親のどちらから受け継ぐかで含量が変わってくることが知られている。このため、ウンシュウミカンも含めた、キシュウミカンとクネンボを交配させた後代の個体の遺伝子を調べることで、どういった遺伝子の組み合わせがβ‐クリプトキサンチンの高含有化につながるかを明らかにすることができる。さらに、β‐クリプトキサンチンの含量が高い個体の遺伝子と低い個体の遺伝子配列の違いは、DNAマーカーとして利用することができる。β‐クリプトキサンチン高含有化のDNAマーカーが開発されれば、β‐クリプトキサンチンを多く含む新しい品種を効率的に開発できるようになる。