□ポイント■
〇血しょうメタボローム解析(注1)によって、ひきこもり者の血中では、健常者よりオルニチンと長鎖アシルカルニチンが増加、及びビリルビンとアルギニンが低下することを発見
〇男性のひきこもり者の血清アルギナーゼが有意に増加していることを発見
〇血液成分と臨床検査値の情報に基づく機械学習アルゴリズムを作成したところ、ひきこもり者と健常者を高い精度で識別し、また、ひきこもり尺度の重症化予測が可能に
社会的ひきこもりは6ヵ月以上自宅にとどまり続ける状態で、ひきこもり状況にある人(ひきこもり者)は国内110万人を越えると推定され、予防法・支援・治療法の確立は国家的急務でとなっている。こうした現状を受けて、九州大学病院では世界初のひきこもり研究外来を立ち上げており、ひきこもりの生物・心理・社会的理解に基づく支援法開発を進めている。
この研究を行ったのは、九大病院検査部の瀬戸山大樹助教・康東天教授と同病院精神科神経科の加藤隆弘准教授・松島敏夫大学院生・中尾智博教授・神庭重信名誉教授らの研究チーム。日本医療研究開発機構(AMED)等の支援により研究を実施した。
ひきこもり者の血液中の代謝物や脂質の測定により、ひきこもりに特徴的な血液バイオマーカーを発見。未服薬のひきこもり者(42名)と健常ボランティア(41名)の臨床データおよび血液データ(一般生化学検査値およびメタボローム・リピドーム解析による血中代謝物)を用いて比較検証を行った。
臨床データと血液データをもとに、機械学習モデルを作成し、ひきこもり者と健常ボランティアの識別、ひきこもり重症度予測を行ったところ、長鎖アシルカルニチン濃度がひきこもり者で有意に高く、ビリルビン、アルギニン、オルニチン、血清アルギナーゼが男性ひきこもり者において健常ボランティアと有意差を認めた。
ランダムフォレストによる判別モデルを作成したところ、ひきこもり者と健常ボランティアの識別ROC(受信者動作特性)曲線下面積が0.854(機密区間0.648-1.000)と高い性能を示した。
ひきこもりは、オックスフォード辞書でも「hikikomori」と表記されており、日本発の社会現象として世界的にも認知されており、コロナウィルスパンデミックに伴って世界中にhikikomori者が急増していると懸念される。
この研究は、日本人のひきこもり者を対象とした客観的指標(血液成分のバイオマーカー)に関する報告。今後、ひきこもりの生物学的理解が進み、栄養療法としての予防法・支援法の開発が期待される。
この研究成果は6月1日に、国際学術誌「Dialogues in Clinical Neuroscience」に掲載された。