「職業に貴賎なし、ではないのか。介護・障害福祉業界の社会的評価が低いのはどう考えてもおかしい」
株式会社土屋の高浜敏之代表取締役は不満を隠さなかった。同社は障害福祉の重度訪問介護を全国規模で展開。1700人超の職員がおり、この分野ではリーディングカンパニーの1つだ。
高浜氏は「業界に対する社会の目をポジティブなものに変えていきたい」「しっかり稼げる人材を増やしてマイナスイメージを払拭したい」と意気込む。今の業界をどう見渡しているのか、今後の展望とともに語ってもらった。
−− どんな背景から重度訪問介護の事業に力を入れているのですか?
私はかつて認知症グループホームでケアワーカーとして働いていました。そこで一緒に働いていた仲間がデイサービスを設立することになり、管理者のオファーを受けたんですね。その会社で、重度訪問介護の事業所を初めて立ち上げることになりました。
すると、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や筋ジストロフィーといった難病患者の方も含め、切実なニーズが多くあることを発見したんです。そこからは、彼らにサービスを届けるために全国を飛び回りました。
その結果、事業所は全国43都道府県にまで拡がりました。重度訪問介護では最大手です。株式会社土屋を立ち上げたのは2020年。それまでの会社から事業を引き受けて現在に至ります。
−− 国の施策に対するご意見、問題意識を聞かせて下さい。
地方分権の〝陰の部分〟が見えることがあります。不適切な判断が野放しにされているのではないか、と感じることが多々あるんですよね。
例えば、A自治体は重度訪問介護に積極的で月744時間のサービスが1割の利用者負担で済みました。一方、B自治体では利用者の状態が同じでも300時間しか保障されません。この444時間の格差はなんなのか、という話です。
市区町村の意識と懐、この2つでサービスの水準が決まってしまいます。歳入に恵まれていても、やる気がない自治体は十分に保障してくれません。逆に、あまりお金が無くても積極的に取り組んでくれる自治体もあります。消極的な自治体にたまたま住んでいる難病患者、障害者の方々が諦めないといけない現状があるんです。
私たちはこの問題を国に繰り返し指摘してきました。すると、「判断は自治体さんだから」と言われてしまいます。これは構造的な問題で、改革が必要ではないでしょうか。人権保障の観点から考えて、「お金が無いから仕方ない」では済まされません。
−− 介護・障害福祉事業者はどうあるべきと考えますか?
そうですね…。旧弊な〝古き良き〟に固着するノスタルジー思考が強いと感じています。そこは脱却すべきではないでしょうか。
例えばDXに関してですが、必ずしも改革を進めていく姿勢が十分でないと指摘されています。弊社ではミーティングもほぼ100%オンラインにしました。デジタル化を皆でガンガン推進し、業界全体で変貌していかなければならないと考えています。
もちろん、DXにも負の側面があるでしょう。オンラインとオフラインのベストバランスをどう考えるか、が非常に大切になってくると思います。
−− 業界の価値観も変わっていかないといけない?
はい。もっと言うと、ビジネスに対する業界の忌避感も無くしていくべきです。若者がこの業界に魅力を感じられない大きな要因となっています。
私も昔は、〝お金のため〟という価値観では働いていませんでした。ですが、やはり給料が良い会社、あるいは業界として着実に成長していかなければ、人材獲得競争に敗れて衰退していくばかりです。
そうした思いから、我々はもっともっと好待遇の環境を作っていきたいと考えています。〝1000万円プレーヤー〟を生み出し、それをできるだけ増やしたいんです。
より効率的・合理的な体制を作り、しっかりと質の高いサービスを提供し、全国的に障害者福祉を増進させるとともに、ビジネス的にもきっちり成果を上げていく − 。これにより、その中で活躍する人がハイクラス層になれる環境を生み出したいんです。この業界に入りたいと思う人を増やし、人手不足を克服することを目指して取り組んでいきます。
−− 他に今後の展望などがあれば教えて下さい。
複数の自治体からヒアリングして分かったのですが、地域によっては「サービスを提供する事業所がないから支給決定をしていない」というケースもあるようです。
ですから更に手を広げていき、まだ弊社の事業所がない栃木、山梨、長野、福井も含めてサービスを展開していこうと計画しています。重度訪問介護を提供できる事業所が十分に存在しないことも大きな社会課題の1つ。その解消に貢献していきたいですね。
−− ありがとうございました。