■ポイント□
〇5月上旬のオミクロン株BA.2系統から、デルタ株の特徴変異部位:L452に新たな変異(L452M変異)を有する国内由来BA.2系統の市中感染事例をさらに確認
〇4月上旬に確認したL452M変異を有する国内由来BA.2系統とは異なる国内由来BA.2系統に、新たにL452M変異が追加された新規変異株であることがわかった
〇当該変異株への感染が確認された患者は4名で、このうち3名はワクチン追加接種済
〇当該患者は基礎疾患の有無や年齢層には依存せず軽症
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科ウイルス制御学分野の武内寛明准教授・東京医科歯科大学病院病院長補佐ら同大病院患者由来SARS‐CoV‐2全ゲノム解析プロジェクトチームは、今年4月中旬~から5月中旬までに東京医歯大病院に入院または通院歴のあるCOVID‐19患者の全ゲノム解析を行った。その結果、4月上旬に引き続き5月上旬に、デルタ株の感染伝播性および免疫逃避に関わる特徴変異部位(スパイクタンパク領域のL452部位)にL452M変異が新たに追加された国内由来BA.2系統の市中感染事例をさらに確認した。このL452M変異が追加された国内由来BA.2系統は、4月上旬に確認されたL452M変異追加型国内由来BA.2系統とは異なる国内由来BA.2系統であることから、国内由来BA.2系統の市中感染が持続することでL452M変異を獲得したBA.2系統が複数発生していることが考えられるという。
現在、BA.2系統が支配的になっているCOVID‐19パンデミック下で、オミクロン系統株BA.4/BA.5系統をはじめ、多様なBA.2亜系統が、世界各地での感染再拡大の原因となりつつある。
これらの新たなオミクロン株は、デルタ株の感染伝播性および免疫逃避に関わる特徴変異部位(スパイクタンパク領域のL452部位)に新たな変異が生じていることが特徴。
南アフリカではL452R変異を有するオミクロン株BA.4/BA.5系統の感染拡大が認められ、アメリカ都市部やイギリスで感染者再増加の要因となっているのは、L452Q変異を有するBA.2.12.1亜系統の感染拡大が要因の一つであることが示唆されている。
また、イギリスやデンマークでは、L452M変異を有するBA.2.9.1亜系統が確認され、ベルギーやオランダではL452M変異を有するBA.2.13系統が確認されており、L452部位に新たな変異が生じた多様なオミクロン株による感染事例が欧米諸国で増加傾向にある。
わが国では、4月上旬に東京医歯大病院でL452M変異を有する国内由来BA.2系統の市中感染事例を確認したが、それから1ヵ月後の5月上旬【ゴールデンウイーク(GW)中・GW後】に、同様の特徴を有する国内由来BA.2系統の市中感染事例をさらに確認した。
全ゲノム配列の詳細な解析結果より、4月上旬の当該系統株と5月上旬のものは、異なる国内由来BA.2系統にL452M変異が別々に生じた可能性が極めて高いことがわかった。
また4月下旬から5月上旬にかけて、オミクロン株BA.2.12.1系統とBA.5系統の本邦市中感染事例が確認されている。
このため研究チームでは、現時点ではL452部位に様々な変異を有するオミクロン株が市中に混在しており、BA.2系統の支配的な市中感染状況が継続している日本国内で、欧米各国と同様の感染再拡大が生じる可能性が考えられると警戒。引き続き効果的な感染拡大防止策を継続すると同時に市中感染株の推移をモニタリングし、SARS‐CoV‐2流行実態を把握することが公衆衛生上の意思決定に重要であるとしている。