■ポイント□
〇イネの免疫誘導で重要な役割を果たす「PBI1」というタンパク質を発見
〇病原菌の有無に応じて、イネの成長と免疫のエネルギーバランスを調節する仕組みを解明
〇今後、病気に強いイネの開発に繋がることに期待
近畿大学大学院農学研究科・アグリ技術革新研究所(奈良市)の川﨑 努教授、博士前期課程(当時)一丸航太さん、山口公志講師らの研究グループは、イネが病原菌非存在下では不必要な免疫の活性化を抑制し、成長にエネルギーを消費できるよう調整していることを明らかにした。大阪大学蛋白質研究所(大阪府吹田市)、横浜国立大学(横浜市)、岩手生物工学研究センター(岩手県北上市)、農業・食品産業技術総合研究機構(茨城県つくば市)との共同研究により解明したもの。この研究成果により、病気に強いイネの開発に繋がることが期待される。
この研究に関する論文は5月16日に、世界的に権威のある科学誌「Nature Communications」に掲載された。
病害による収穫損失は10億人分
農業生産で病害による収量の損失は約15%にものぼり、この損失量は10億人分の食料に相当する。また、ここ数年、世界規模での環境変動や、国際貿易に伴う病原菌・害虫の移動により、従来の病害発生地域とは異なる地域での病害も発生している。
さらに、新たな病原菌が出現して植物でパンデミックを引き起こし、作物が壊滅的な被害を受けた例も多数報告されている。このような現状を打開し、食料生産を持続的に安定化するための次世代耐病性技術の開発が望まれている。
近畿大大学院農学研究科の研究グループは、これまでイネの耐病性に関する研究に取り組み、イネの免疫を制御する因子として、「PUB44」という酵素を発見した。また、このPUB44が免疫応答をはじめとするさまざまな生命現象をコントロールするために、何らかのタンパク質と相互作用していることが示唆されていた。
病気に強く収量が安定したイネ開発に期待
研究グループは、PUB44と相互作用することで免疫応答をコントロールする因子を探索し、「PBI1」というタンパク質を発見した。このPBI1を解析した結果、イネの免疫系で重要な役割を果たす「WRKY45」という転写因子の活性を制御していることを見出した。
さらに、病原菌の非存在下では、PBI1がWRKY45の機能を阻害して不必要な免疫の活性化を抑制する一方で、病原菌に感染するとPUB44が活性化し、PBI1が分解されて免疫が活性化することを明らかにした。
これは、不必要な免疫誘導によるエネルギー使用を抑え、イネの成長にエネルギーを消費できるよう調整していると考えられる。この研究成果は、PBI1がWRKY45の活性化のオン・オフを介してイネの成長と免疫のエネルギーバランスを調整していることを示しており、今後、病気に強く、収量が安定したイネの開発に繋がることが期待される。