東京工業大学生命理工学院生命理工学系の西原秀典助教らの研究グループは、日本列島に生息していたオオカミの化石を用いてゲノムDNAの解析と放射性炭素による年代測定に成功した。その結果、従来のニホンオオカミの起源に関する定説を覆し、更新世(※)の日本列島にはこれまで知られていない古い系統の大型オオカミが生息していたこと、またニホンオオカミの祖先は、更新世の古い系統のオオカミと最終氷期の後期に日本列島に入ってきた新しい系統の交雑により成立したことを初めて明らかにした。
この研究は西原助教と、山梨大学の瀬川高弘講師、国立科学博物館の甲能直樹グループ長、東京農業大学の米澤隆弘准教授、国立遺伝学研究所、山形大学、国立歴史民俗博物館などとの研究グループで行った。研究成果は日本時間の5月10日に米科学雑誌「カレント・バイオロジー」電子版に掲載された。
■ポイント□
〇かつて日本列島に生息していた3万5000年前の巨大なオオカミと5000年前のニホンオオカミの化石から古代DNA解析に成功。巨大なオオカミは古くに分岐した更新世オオカミ系統の一つであることが判明
〇ニホンオオカミは巨大な更新世オオカミの系統と後から日本列島に入ってきたオオカミ系統の交雑により成立したことが明らかに
かつて日本には、極めて小型の日本固有亜種ニホンオオカミが生息していた。ニホンオオカミは古くは約9000年前の遺骸が見つかっており、本州・四国・九州に広く分布した肉食哺乳類だったが、20世紀初頭に絶滅したことが知られている。一方、2万年前から以前の更新世の日本には世界最大級の巨大なオオカミが生息していたことが化石記録から知られているが、このオオカミの系統は一切不明だった。
このため、更新世の巨大なオオカミと小型のニホンオオカミとの進化的な関連性については長年論争となっていた。そこでニホンオオカミの遺伝的起源を明らかにするために、3万5000年前の巨大な更新世オオカミの化石と5000年前のニホンオオカミの遺骸から古代DNA解析を行った。
その結果、ミトコンドリアDNA解析から更新世オオカミは、ニホンオオカミとは全く異なり古くに分岐した系統であることが明らかとなった。また分岐年代推定により、巨大な更新世オオカミは5万7000年前~3万5000年前の間に大陸から日本列島へ渡り、その後、3万7000年前~1万4000年前の間にニホンオオカミの祖先に繋がる系統が渡来したことが示された。
さらに核ゲノムDNA解析から、5000年前のニホンオオカミは巨大な更新世オオカミの系統と後から日本列島に入ってきた新しい系統が交雑して成立したことが明らかになった。
この研究成果から、ニホンオオカミが従来考えられていたよりもはるかに複雑な進化史を持っていたこと、またその成立には日本列島という特殊な地理的環境が大きく寄与したことが初めて解明された。
※更新世:地質時代の区分の一つで、約258万年前~約1万2千年まえまでの期間