■ポイント□
〇胸腔ドレーンの挿入事例、順天堂大医院だけでも年間1300件
〇超音波検査の使用が困難
順天堂大学医学部呼吸器外科学講座は、胸腔ドレーン挿入法(胸腔ドレナージ)の安全性を高めるべく、AR(拡張現実)を活用したシステム構築と技術開発を進めるため、4月18日からクラウドファンディングを実施している。
胸腔ドレナージとは体内に貯留した血液・膿・浸出液・気体などを体外に排出することを「ドレナージ」と言い、医療現場で一般的に行われている処置。腹水に対する腹腔ドレナージや、気胸に対する胸腔ドレナージが代表的なものとして挙げられ、胸腔ドレナージでは、肺と胸壁の間の胸腔に〝胸腔ドレーン〟と呼ばれるチューブを挿入し、溜まった液体や空気を取り除く。胸腔ドレーンの挿入事例は、順天堂大医学部附属順天堂医院だけでも年間1300例ほどにのぼる。
安全にドレナージを行うためには、体腔内の状況をできるだけリアルタイムで認識することが重要です。腹腔内は超音波によって臓器の位置や腹水の貯留状況を知ることができるため、腹腔ドレナージでは超音波検査が多用されるが、一方で、気体が介在する胸腔では、超音波が気体に跳ね返されてしまうことから、胸腔ドレナージの際には超音波検査を用いることはできない。
このため胸腔ドレナージを行う場合は、胸部CTを撮像し、事前に術者が頭の中で詳細に分析したうえで、患者のベッドサイドでドレーンを挿入する必要があった。この方法で安全にドレナージを行える場合もみられるが、実際には胸膜の異常な肥厚や、胸腔のドレナージスペースの狭小化などの理由から、実施が極めて困難となるケースが多く生じているのが現状。
また、胸腔ドレーン挿入時にしばしば発生する胸腔臓器損傷は重大な合併症を引き起こすことからも、安全な胸腔ドレーン挿入法の開発は不可欠となっていた。
そこでこの現状を打破するため、ARを用いて胸部CTの情報をARグラスに反映して〝体腔内を透視した状況〟を実現し、胸腔ドレーンの安全な挿入をサポートするシステム構築の研究を推進するためのクラウドファンディングを開始することになった。この研究は、㈱VR Japanとの共同研究になる。