慶應義塾大学医学部外科学教室(一般・消化器)の林田哲専任講師、北川雄光教授、同医療政策・管理学教室の宮田裕章教授、帝京大学医学部外科学教室の神野浩光教授らの研究グループは、SNSツールであるLINEを利用した、乳がん患者の健康状態や薬物の副作用情報を収集するLINEを用いたePROの取得システムを開発・運用し、診療で効率的な情報収集が可能であることを明らかにした。ePROは、従来紙ベースで収集していた PROs(症状や薬物の副作用に対する患者自身の主観的な評価)をデジタルデバイスを用いて収集するもの。
LINEを用いたePROの取得システムでは、患者のスマートフォンなどにインストールされたLINEアプリケーションにあらかじめ決められたメッセージが定期的に送信。簡単なタップ操作により返答することで、がん治療薬の副作用重症度の国際的指標であるPRO-CTCAEに準拠した形式で症状を把握することが可能となる。
この臨床研究は、乳がんに対する薬物療法が行われている患者にこのLINEを用いたePROの取得システムを提供し、利用の継続性や患者情報が良好に取得可能であるかを検討するフィージビリティ試験(適格性を検討する試験)として実施された。
その結果、LINE経由での質問に対する利用者の回答数・回答率は、専用アプリケーションを用いた海外の同様の研究と比較して極めて高く、また60歳を超える患者も良好な利用・継続が可能だった。これはLINEという日常的に使用するツールを基盤としてシステム構築を行ったことで、患者が戸惑うこと無く操作が可能であったことが要因と考えられる。
この研究の結果、LINEを用いたePROの取得システムにより幅広い年齢層の乳がん患者から毎日の副作用に関する情報を収集することが可能であることが明らかとなり、今後、抗がん剤による重篤な副作用を未然に把握するなど、より安全・安心な新しい形の医療を提供できる可能性が期待される。