農研機構は、高品質カンキツ生産に役立つ簡易土壌水分計の利用手順を「標準作業手順書」としてとりまとめた。この中では、これまで公表されてきた「カンキツ用簡易土壌水分計の利用方法」についての情報が集約されているとともに、かん水の要否判定の具体的方法や改良された設置方法などが新たに追加されている。
〔カンキツが受けている乾燥ストレスを把握する技術が重要〕
カンキツでは、果汁が蓄積する時期に適度な乾燥ストレスを付与することにより、糖度が上昇し、商品価値が高まる。カンキツに乾燥ストレスを付与する目的で園地にマルチシートが敷設されるが、高品質果実を毎年安定して生産するには適切な乾燥ストレスを付与することが重要となる。しかし、カンキツが受けている乾燥ストレスの判定は、葉の巻き加減や葉色、樹勢などを判断材料に、生産者の経験と勘に頼っているのが現状である。
このため、新規就農者などの乾燥ストレスの判定に習熟していない生産者が乾燥ストレスをかけ過ぎて果実が酸っぱくなったり、樹体にダメージを与えてしまう場合がある。逆に、乾燥ストレスが不十分で、ブランド基準を満たさない低糖度果実となることもあり、カンキツが受けている乾燥ストレスを把握する技術が求められている。
〔低水分領域の測定に特化した簡易土壌水分計を開発〕
カンキツが受けている乾燥ストレスを土壌水分から判定する試みは古くから行われているが、従来の土壌水分計では、カンキツが乾燥ストレスを受け始める前に測定限界に達したり、測定値が変化しなくなったりするため、カンキツの乾燥ストレスを判定するツールとしては不十分だった。
そこで農研機構は、カンキツが受けている乾燥ストレスを判定するツールとして、低水分領域の測定に特化した簡易土壌水分計を開発した。これを活用し、カンキツ果実の高品質化に役立つ利用方法の研究を進めている。
これまでは成果情報やマニュアル等により、簡易土壌水分計の特徴や設置・修理方法が個別に紹介されてきたが、今回、情報が集約されるとともに、新たな内容が追加され、生産現場でより実践的に活用できる標準作業手順書に充実させた。
〔確立した簡易土壌水分計の具体的な利用方法を記載〕
今回とりまとめられた標準作業手順書では、乾燥ストレスの指標値をもとにしたかん水要否判定基準や改良された設置方法が新たに追加され、これまでに確立した簡易土壌水分計の利用方法について具体的に記載されている。
Ⅰ章では、カンキツの受けている乾燥ストレスの従来の判定方法と課題について整理されている。
Ⅱ章ではその課題を解決するために農研機構で開発した簡易土壌水分計について、構造や測定メカニズム、カンキツの乾燥ストレス評価に利用する際の基礎となるデータがまとめられている。簡易土壌水分計の指示値は塩ビ管内の水位として表示され、1日あたりの水位低下量はカンキツが受けている乾燥ストレスの指標になり、水位低下量を日々積算した値は果実糖度の指標になることについて解説されている。
Ⅲ章では、簡易土壌水分計を用いたかん水の要否判定技術について、技術の導入先や適用条件、かん水の要否判定を行う具体的な手順が解説されている。一例として、温州ミカンを対象にした場合、簡易土壌水分計での1日あたりの水位低下量が4~8cmの範囲が高品質化に適した乾燥ストレスに相当するため、糖度を上げるために乾燥ストレスを与える7月以降の時期について、1日あたりの水位低下量に応じて ①4cm未満の場合はかん水は不要 ②4~8cmの場合はこの範囲を維持するように点滴かん水等を実施 ③8cm以上の場合はかん水量を増やす ― という判断方法が提示されている。
Ⅳ章では、簡易土壌水分計を用いて実際にかん水の要否を判定した事例が紹介されている。
Ⅴ章では、簡易土壌水分計の設置方法やメンテナンス・修理方法が解説されている。従来の方法からポーラスカップの周囲を水田土壌に置き換えて設置する方法に改良され、土壌中の水とポーラスカップ内の水とが強い力で繋がり、従来の方法で生じていた、土壌が乾燥しても簡易土壌水分計の水位が下がらない現象を回避できるようにされている。
〔高品質果実の安定生産につながることに期待〕
今回とりまとめられた方法に準じてかん水管理を行うことで、高品質果実の安定生産につながることが期待される。
また、この技術は、農研機構が開発した簡易土壌水分計の利用を前提としている。現在、簡易土壌水分計は農業関連機器メーカーの(株)藤原製作所が「土壌水分目視計」の商品名で販売している。カンキツ用の完成品は1本9500円、ポーラスカップや塩ビ管等の部品のみを販売する組み立てキットは1セット6000円。簡易土壌水分計はJA等の代理店や通販サイトで購入可能。
簡易土壌水分計は、塩ビ管内の水位を生産者が目視で確認し、かん水管理に役立てる使い方を想定している。その一方で、スマート農業にも活用できるように、簡易土壌水分計の水位を自動計測し、測定値をウェブ上で公開することにより産地全体で情報を共有するシステム開発も進められている。