東京工科大学医療保健学部の横田恭子教授らの研究グループは、唾液によるインフルエンザウイルスの特異的IgA抗体測定の有用性を示す論文を発表した。簡便かつ効率的な診断や経鼻ワクチンの効果判定などにつながることが期待される。この研究成果は、同学部臨床検査学科の学生ボランティアや卒業研究生の協力によるもので、2月7日に科学誌「PLOS ONE」オンライン版に掲載された。
インフルエンザウイルスにはA型(H1N1とH3N2)とB型(2系統)の4種類があり、毎年冬に季節性インフルエンザを引き起す。その年にどの型が流行するのか正確な予測は難しく、またゲノムRNAの遺伝子変異頻度が高いため、毎年変異に応じたワクチンが作製され接種されているものの、感染防御効果は限定的。
インフルエンザのような上気道感染するウイルスの場合、粘膜IgAが感染防御に重要な役割を果たすことが以前から指摘されており、国内でも従来の皮下接種に代わる経鼻ワクチンの開発と実用化が進められている。
一方、インフルエンザの診断の多くは鼻咽頭ぬぐい液でなされ、粘膜で誘導される抗体も鼻洗浄液を使って測定されている。同手法では、大量の生理食塩液を使い採取が容易でないことや、抗体を測定するには鼻洗浄液を100倍程度濃縮する必要があり、より簡便に採取できる唾液により膜免疫応答が解析できれば、容易に診断が可能になると考えられる。
実際に、新型コロナウイルスの感染では唾液中にウイルスだけでなく、特異的IgAやIgG抗体が検出されていることから、唾液はインフルエンザを含めたさまざまな上気道感染の診断、あるいは経鼻ワクチンの効果判定のための有用な検体になると期待される。
臨床検査学科では、2017年から研究協力に同意した学生のインフルエンザ感染時や同ワクチン接種前後の唾液と血液を保存してきた。2019年末から2020年1月にかけてのA型(H1N1)流行時に、感染前から唾液を保存していた研究協力者十数名が罹患し一定の検体数が得られたことから、唾液中の抗体測定の有用性を評価した。
感染後期に増加率が高まる
横田教授らは、インフルエンザ特異的IgAとIgG抗体量をELISA(酸素結合免疫吸着測定)法で測定・評価した。国立感染症研究所の協力のもと、スタンダード抗体としてH1とH3のHA(ヘマグルチニン、インフルエンザウイルス外被表面のタンパク質)を幅広く認識する単クローン抗体(FI6-IgG)の多変領域遺伝子をもとに組換え型IgAを作製し、血清と唾液中のインフルエンザ特異的IgAとIgG抗体量を測定した。
唾液中のIgA量は個体差や日内変動が大きいことから、IgAは唾液中の全量に対する特異的IgA量を計算。7例の検体について、感染前、感染後10日前後(感染初期)と1ヶ月後(感染後期)の時点での唾液中のIgGとIgA抗体の量を測定した。
この結果、IgAは感染初期で70倍近くに増加し感染後期には10倍程度に減少したのに対し、IgGは感染初期よりも感染後期に増加率が高いことが示されました。一方、通常の皮下接種ワクチン接種前後の唾液ではこのような特異的IgAの増加は認められなかった。