2022年2月10日 【広島大】西日本豪雨災害後に認知症患者が増加 ビッグデータを用いた縦断分析

広島大学大学院先進理工系科学研究科の鹿嶋小緒里准教授らは、医療レセプトデータを用いた研究により、2018年西日本豪雨災害の被災者で、被災を契機に認知症治療薬処方を受けた人の割合が増加していることを明らかした。これまで、東日本大震災等のデータから自然災害によって高齢者の認知機能が低下する可能性が示唆されていたが、この研究は医師の処方行動の変化からこの仮説を裏付けた。

この研究を行ったのは、鹿嶋准教授をはじめ、広島大大学院医系科学研究科の松本正俊教授、石井伸弥教授、吉田秀平助教、自治医科大学地域医療学センターの小池創一教授、北広島町八幡診療所の岡崎悠治医師。この研究成果は米国学術誌「JAMDA」にオンライン掲載された。

世界的な気候変動により自然災害のリスクは年々増加している。また、これら災害はさまざまな健康被害をもたらす可能性がある。これまでの研究で自然災害の被災者で認知機能が悪化する可能性が指摘されていたが、実際に治療内容にまで変化が生じるかは明らかではなかった。

研究は厚生労働省より許可を経て、西日本豪雨災害の被害が大きかった3県(広島県、岡山県、愛媛県)の医療レセプト(診療報酬明細書)データを分析し、65歳以上の住民の認知症治療薬処方数の変化を災害前後(それぞれ1年間)で評価した。

データに含まれる65歳以上の対象者171万119人のうち、0.9%(1万5994人)が市町村により被災者として認定されており、6.6%(11万2289人)が認知症治療薬を処方されていた。

災害前に認知症治療薬を処方されていなかった対象者(無治療者)のうち、被災者群は非被災者群と比較して災害後に有意に高い比率で認知症治療薬が処方されていた。また、災害前から継続して処方されていた対象者(既治療者)についても、被災群で処方量が非被災者群と比較して有意に増えていた

これらの結果により、自然災害は被災した高齢者の認知機能を低下させ、医師による治療の開始あるいは強化をもたらしていたことが明らかとなった。

科学的根拠に基づく指針が必要

気候変動による自然災害の増加、また世界的な高齢化社会の進行に伴い、高齢者の災害対応体制構築と高齢者のレジリエンスを高めるヘルシー・エイジングの取り組みを加速させる必要がある。

自然災害は高齢者に認知症をはじめ、多大な健康被害をもたらす。災害弱者である高齢者のレジリエンスを構築し、災害に対するリスクや脆弱性を軽減することはSDGs(持続可

能な開発目標)達成のためにも不可欠。災害による高齢者の認知機能低下を防ぐためには、国や地方自体による認知症対策と災害対策を連携させる必要があり、また、これら対策のガイドラインを科学的根拠に基づくものにしていく必要があると考えられる。


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