東京大学医科学研究所ウイルス感染部門の河岡義裕特任教授らの研究グループは、新型コロナウイルス変異株・オミクロン株の特性を明らかにした。オミクロン株が昨年末に南アフリカで初めて確認されて以降、変異株の流行は世界中に拡大し、爆発的に感染例が増加している。研究グループは今回、感染患者から分離したオミクロン株の性状を新型コロナウイル感染症の動物モデル(マウスとハムスター)を用いて評価し、従来の流行株と比較した。その結果、オミクロン株は、マウスやハムスターの上気道と下気道部で増殖するものの、その増殖力と病原性は従来の流行株よりも低下していることが明らかになった。
この研究成果は、今後の新型コロナウイルス感染症対策計画を策定、実施する上で、重要な情報となる。
この研究成果は1月21日、米国科学雑誌「Nature」オンライン速報版で公開された。
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ウイルス感染にとって重要な役割を担うスパイク蛋白質上の変異は、既存のワクチンや治療薬の効果を減弱させる可能性や、病原性や伝播力を変化させる可能性があるが、オミクロン株の基本性状は明らかにされていなかった。そこで、東大医科学研究所ウイルス感染部門の河岡義裕特任教授らの研究グループは感染モデル動物のマウスとハムスターを用いて、患者から分離したオミクロン株の増殖能と病原性を従来の流行株と比較した。
マウスの肺や鼻におけるオミクロン株の増殖能は、ベータ株と比べて大幅に低いことが明らかとなった。また、オミクロン株を感染させたマウスでは、呼吸器症状の悪化も認められなかった。
続いてハムスターを用いて同様の解析を、オミクロン株が出現するまで流行の主流であったデルタ株との比較で行った。デルタ株感染ハムスターでは、体重減少と呼吸器症状の悪化が認められたのに対して、オミクロン株感染では、体重減少と呼吸器症状の悪化はみられなかった。
また、オミクロン株は、ハムスターの鼻では良く増えたが、肺での増殖能はデルタ株よりも顕著に低いことがわかった。さらにコンピュータ断層撮影法(CT)を用いて、感染動物の肺を解析したところ、デルタ株感染ハムスターでは新型コロナ患者で見られるような肺炎像が観察されたが、オミクロン株感染ハムスターでは、軽度の炎症しか見られなかった。
この研究によって、新型コロナ動物モデルでのオミクロン株の増殖能と病原性は、これまでの流行株と比較して低いことが明らかになった。
一方で、動物モデルでの成績がそのままヒトに当てはまるかどうか不明。重症化しやすい高齢者や基礎疾患を有するヒト、あるいはワクチン接種を受けていないなど新型コロナウイルスに対する免疫を持っていないヒトに対して、オミクロン株がどのような病原性を示すのか今後も検証が必要としている。