東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男教授の研究グループは、同大の救急救命センター、臨床検査医学分野との共同研究で、新型コロナウイルス感染症のPCR検査で高いウイルスコピー数を有し、周囲への感染を拡大する「スーパースプレッダー」と呼ばれる患者の決定要因を明らかした。この研究成果は、国際科学誌「ジャーナルオブインフェクション」のオンライン版で公開された。
新型コロナウイルス感染症の診断にはPCR検査が重要な役割を果たし、同検査によりウイルスコピー数の定量的な評価が可能となる。
2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)あるいは2012年のMERS(中東呼吸器症候群)流行時から、全ての患者が等しく感染を広げるのではなく、高いウイルスコピー数をもつ特定の患者が特に感染を広げていくことが知られている。
これらの患者は「スーパースプレッダー」と呼ばれ、新型コロナウイルス感染症でもスーパースプレッダーが高い感染力と死亡率をもつことが知られている。スーパースプレッダーを早期に同定することは、治療および周囲への二次感染の拡大防止の観点から重要だが、これまでスーパースプレッダーの決定要因については解明されていなかった。
藤原教授ら研究グループは2020年3月から2021年6 月までに、中等症から重症の新型コロナウイルス感染症で東京医科歯科大学病院に入院し、少なくとも1回以上PCR検査が行われた患者379名を対象とし、スーパースプレッダーを特定する要因について検討した。
入院患者の電子カルテの情報をもとに、高血圧・糖尿病・脂質異常症・高尿酸血症・関節リウマチ・癌・慢性腎不全・脳梗塞・心疾患・呼吸器疾患・アレルギーといった既往歴について調査・分析。年齢や性別、喫煙歴で調整した分析の結果、上記の既往を三つ以上重複して有する患者では、既往のない患者と比較して、ウイルスコピー数が87.1倍高くなることが明らかになった。
また、糖尿病患者では17.8倍、関節リウマチ患者では1659.6倍、脳梗塞患者では234.4倍ウイルスコピー数が高くなることが判明した。
入院時の血液検査結果の解析では、入院時に血小板とCRPが低い患者は高いウイルスコピー数を有することが明らかになった。さらに、複数回PCR検査を行った患者を分析した結果、90%以上の患者が初回または2回目の検査で最大のウイルスコピー数に達していることが判明した。