現代を含む人新世は、自然破壊による地球史上6度目の大量絶滅の時代になると懸念されている。自然資本である生物多様性は、サステナビリティの根源。もはや、待ったなしの状況のなかで、〝自然の豊かさを取り戻す〟ネイチャー・ポジティブへ向けた実効性のある活動が、民間企業にも求められている―。
琉球大学理学部の久保田康裕教授と㈱シンクネイチャーの研究チームは、企業の自然関連リスクや生物多様性への取り組み実績を定量する手法を開発し、企業向けESG(環境・社会・企業統治)評価の支援基盤を構築した。このESG評価法は、ビッグデータと機械学習(AI等)を駆使したマクロ生態学の分析に基づき、企業活動が自然に与える影響を、生物多様性の保全再生効果や生物絶滅リスクの増加効果あるいは緩和効果としてKPI化(課題を数値化)し、企業の様々な活動内容を共通の「ものさし」で比較することを可能にした。
研究チームは、この評価法構築により、ビジネスを通じたネイチャー・ポジティブで地球上の生物多様性を未来に引き継ぐこと、ひいては社会変革の推進を期待している。
生物多様性ビッグデータと人工知能を基にしたソリューション
企業の活動内容や活動場所は多岐にわたり、ビジネスが生態系や生物多様性に与える影響(自然関連リスク)は業種や地域で異なる。このような個々の企業活動の自然関連リスクは、世界や日本を俯瞰したマクロな生物多様性の実態がブラックボックスだったために、統一的に定量評価することが不可能だった。
この点、膨大な生物分布情報を人工知能で分析すると、野生生物(維管束植物・哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類・魚類・サンゴ・貝類・甲殻類・昆虫等)の種分布を網羅的に地図化でき、生物多様性のマクロな実態を高解像度で把握し、あらゆる場所における企業活動のインパクトを比較可能となる。
こうした現状等を背景として、研究チームは、生物多様性地図システム「J‐BMP(https://biodiversity-map.thinknature-japan.com)」を開発。各地点の生物多様性の特徴(豊かさや希少性)や保全上の重要性を、その他の地点と比較して相対的に評価でき、各場所の自然を開発利用した場合のリスクをさまざまな指標値で評価する。
企業活動が自然に与える影響をKPI化(課題を数値化)して評価
また、生物多様性の空間データをマクロ生態学の理論やシステム化保全計画法のアルゴリズム(分析手順や計算方法)で分析すると、あらゆる場所の生物多様性の価値や、生物多様性の保全効果と絶滅リスクを評価できる。これにより、企業活動が自然に与える「面積ベースの影響」を、生物絶滅リスク値、生物多様性消失量、生物多様性保全再生量などKPI化(課題を数値化)して評価することが可能。例えば、「ある企業が、沿岸海域で海草藻場の再生を実施した場合、そのブルーカーボン事業による『生物絶滅の抑止効果』すなわち『生物多様性再生量(ゲイン)』の定量評価」など、企業活動の評価に適用できる。