東京医科歯科大学の研究グループは、タブレット貸出により同大病院集中治療部と患者家族を動画通信で結ぶ遠隔家族面会システムを構築し、その効果を家族と医療従事者双方に対するアンケート調査を実施。家族・医療従事者双方から高い評価を得た。この研究はシャープ㈱の協力のもと、患者家族と病院間の通話専用に開発された操作が簡単な動画通信機能付きタブレット端末を用いて行われました。研究成果は、第49回日本救急医学会総会・学術集会で報告された。
この調査研究を行ったのは、大学院医歯学総合研究科生体集中管理学分野の野坂宜之助教と山内英雄特任講師、鵜川豊世武特任准教授、若林健二教授の研究グループ。
新型コロナウイルス感染症は未だ完全な収束をみせておらず、同疾患が患者に与える長期的後遺症の存在はLong COVIDとして知られている。集中治療領域では、重症な疾患の後遺症は患者自身だけでなく患者家族にも及ぶことが「家族の集中治療後症候群(PICS-F)」と呼ばれて知られており、具体的には不安やうつなどのメンタルヘルス障害を発症する危険が報告されている。
PICS-Fの予防には医療従事者と家族の間の良好なコミュニケーションの確立が重要とされ、なかでも家族面会は重要な役割を果たす。しかしながら、コロナ禍での感染対策の一環として多くの病院で家族面会が禁止・制限された結果、集中治療を要する重症患者の家族のメンタルヘルスに強い懸念が生じている。
東京医歯大病院は200名を超える重症患者を含む600名以上の新型コロナ患者の治療に当たる中で、PICS-F対策としてタブレットを用いた動画通信による遠隔家族面会に取り組んできた。
一方で、患者家族のなかには、タブレットを所有していなかったり、所有している機種が異なるために新たなアプリの設定やIDなど個人情報を含む複雑な情報の交換が必要な状況があるなど、「ツールの溝」が多く存在した。
そこで、東京医歯大病院集中治療部では、「ツールの溝」が存在した患者家族を対象に、シャープ㈱の協力のもと、患者家族と病院間通話のためだけに開発された操作が簡単な通信機能付きタブレット端末を貸出して遠隔家族面会を実施するオンライン面会の取組を実施。効果・満足度について調査した。
□「ツールの溝」の頻度と内訳 医歯大病院集中治療部では今年5月以降40家族にタブレット面会を実施し、このうち15件(37%)にタブレットを貸出した。つまり約4割に「ツールの溝」が存在していた。貸出した家族のうち約7割(10名)は50代以上の中高年層でした。また、家族の居住地の約3割(4件)は首都圏以外の遠隔地だった。
□タブレット面会の効果 タブレット面会により平均週2-3回の面会が実施されるようになり、看護師が画面越しに家族ケアを実施する頻度が明らかに増えた。
□家族・医療従事者の評価 家族・医療従事者に実施した5点満点の満足度調査ではそれぞれ中央値5点、4点という高い評価を得た。また、患者家族アンケートの自由記載欄には以下のようなコメント(抜粋)が寄せられた。
「先生方や看護師さんの表情が「力」になり、電話だけでは伝わらない感覚が良かったです」
「このタブレットで毎日面会でき、現実に向かい合うことができました」
「百聞は一見にしかず」
「元気になっていく姿を見て安心して毎日を過ごすことができました」