農研機構の生物機能利用研究部門と中央農業研究センターは、アミノ酸の一種であるヒスチジン等をトマトに与えると、難防除病害である青枯病の発病が抑えられることを発見した。ヒスチジンには、青枯病苗を直接殺菌する効果はないが、植物が本来持つ病害抵抗性を高めることで発病を抑える。作物の病害抵抗力を利用した青枯病防除剤の素材として有望視されており、現在、研究コンソーシアムに参画している民間企業との連携の下、実用化に向けた研究が進められている。
土壌中の病原菌によって起こる土壌病害は、根が常に土壌に触れていること、消毒剤や薬剤の及ばない土壌深層にも病原菌が存在することから、防除することが非常に難しい。また、土壌病害である青枯病は、トマトやナス、ピーマン、ジャガイモ、ショウガなど多くの作物に発生する作物の重要病害の一つである。特に、トマト栽培では近年、施設の大規模化や産地ブランドの拡大により連作を余儀なくされ、青枯病の発生が増加している。
トマトの青枯病防除では、化学くん蒸剤による土壌消毒や抵抗性品種を台木にした接ぎ木苗の利用が広く普及している。しかし、くん蒸剤の不十分な浸透や汚染された剪定鋏の連続使用、苗の深植えなど、栽培管理上の不注意による穂木への直接感染で被害が発生することがあり、完全に防ぎきれていない。こうした場合に備え、新しい防除技術の開発が望まれていた。
様々な物質の発病抑制効果を調査
こうした状況の中、農研機構では、青枯病に有効な新たな薬剤を探索するため、農薬から植物ホルモン、農業資材まで様々な物質について青枯病の発病抑制効果を調査した。
その結果、ある酵母抽出液に強い青枯病の発病抑制効果があることを発見し、その有効成分がアミノ酸のヒスチジンであることを突き止めた。
研究では、トマトを植えたポットをヒスチジン溶液に浸漬し、培養した後に青枯病菌を感染させた結果、対照区である水だけを与えた場合と比較して発病が抑えられることが実験室内の実験で確認された。さらに、アルギニンやリシンなどのアミノ酸も、ヒスチジンと同様に青枯病発病抑制効果を示した。これらのアミノ酸については、同じナス科のタバコやアブラナ科の一種であるシロイヌナズナの青枯病に対しても発病抑制効果を示すことが確認された。
また、ヒスチジンは、青枯病菌に対する抗菌(殺菌)活性は持たず、ヒスチジンを与えたことによってトマトの生体防御反応が高まる〝プラントアクティベーター〟として働くことが分かった。
病害防除剤の開発を推進
今回の研究でプラントアクティベーターの有望素材が見つかったことから、現在、民間企業との連携の下、病害防除剤の開発が進められている。その取り組みでは、アミノ酸を植物根から吸わせた場合に顕著な病害発病抑制効果が認められたという成果を踏まえ、栽培現場で実践できる灌注処理(土壌に薬剤を注入する方法)を想定した剤の開発が行われている。また、トマト栽培では、青枯病抵抗性品種を台木にした接ぎ木苗が用いられているため、台木の抵抗性とアミノ酸による防除の相乗効果の発現を目指し、農研機構が普及を進めている「高接ぎ木法」との最適な組合せ技術についても検討が行われている。