東京大学大気海洋研究所の研究グループは、九州地方の豪雨に先行する大気中下層の水蒸気流入の役割を解明した。九州地方の豪雨に1日程度先行して、高度1000㍍以上大気境界層より上空の水蒸気流入が増加することを15年分の気象庁メソ数値予報モデル初期値データから示した。この水蒸気流入により、対流圏中層で大気が飽和した湿潤絶対不安定層(モール)が形成され、多量の雨をもたらすメソスケール降水域の維持に寄与していることを明らかにした。降水量が多い場合、上空の加湿化がより早く始まりモールが頻発することから、この成果は大きな被害をもたらす豪雨の事前予測に貢献することが期待される。
大気中下層で生じる「湿った条件」
これまでの多くの研究は、雷雲のような背が高く激しい上昇流を伴う雲を豪雨の原因として想定し、大気の不安定性や大気境界層での水蒸気流入の重要性を強調してきた。一方、豪雨の発生に関する上空での水蒸気流入の役割については、あまり注目されていなかった。しかし、ここ数年の研究は、豪雨が必ずしも雷雲を伴わないこと、大気中下層(2000~3000㍍の上空)が非常に湿った条件で生じることを指摘し、大気中下層の水蒸気流入の重要性が示唆される。
この調査研究を行ったのは、東大大気海洋研究所の辻宏樹特任研究員、高薮縁教授ら。15年間の気象庁メソ数値予報モデル初期値データを用い、豪雨時の九州地方への水蒸気流入を境界層と1000㍍以上の上空とに分けて解析した。
頻発する九州地区の豪雨災害
ここ数年、九州地方では甚大な被害を伴う豪雨災害が頻発している。豪雨に関する過去の研究の多くでは、雷雲のような、背が高く激しい上昇流を伴う雲が豪雨をもたらすと想定し、大気の不安定性や大気境界層における水蒸気流入の重要性を主張している。
一方、ここ数年の研究では、豪雨が必ずしも雷雲や激しい上昇流を伴わないこと、2000~3000㍍の上空が非常に湿っている状況で生じることを指摘している。
湿った環境では、メソスケール降水域の中に、湿潤絶対不安定層が出現しうることが指摘されている。しかし、集中豪雨の仕組みの議論の中で、上空の水蒸気流入とモールの役割については解明されていなかった。