2021年9月8日 【農工大】高山域への外来植物持ち込み抑止の障壁は「無行動」

その靴、掃除しました?‐。東京農工大学等の研究グループは、高山域への外来植物の持ち込みの抑止は訪問者の無知識・無関心ではなく、無行動が障壁となっていることを明らかにした。中部山岳国立公園・立山駅構内での訪問者を対象とした調査から、高山帯・亜高山帯への訪問者の約7.8%の靴に外来植物のタネが付着していたことを確認。外来植物の持ち込みを抑止するうえでの障壁は、持ち込まれた外来植物が引き起こし得る問題などに対する訪問者の知識や問題意識の欠如ではなく、問題意識が入山前の靴の清掃という実際の対策行動に繋がっていないことにあることを解明した。この成果により、今後、高山帯・亜高山帯への外来植物の持ち込みを抑止する対策が進むことが期待される。

この調査研究を行ったのは、農工大大学院農学府自然環境保全学専攻の西澤文華氏(2020年3月修士課程修了)、同大学院農学研究院自然環境部門の赤坂宗光准教授、国立研究開発法人国立環境研究所の久保雄広主任研究員、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所の小山明日香主任研究員の研究グループ。

外来植物は、生態系や、経済活動、人々の健康に深刻な問題を引き起こしている。この問題の究極的な対策は、外来植物の持ち込みを防止すること。外来植物の持ち込みは、多くの場合、歩行者の立ち入りを禁止することで防止できる。

歩行者は、衣類や靴にタネが付着した状態で移動することで意図せずに外来植物を持ち込んでしまうことがあり、この意図しない持ち込みが外来植物の自然地域への主な経路の一つとなっている。また、歩行者は車両よりも自然地域の奥深くに入り込むこともできる。

これらの観点からは、国立公園などの生物多様性・生態系が豊かな地域では歩行者の立ち入りを制限することが望まれるが、このような場所は登山やハイキングを含む質の高い自然体験の場でもある。つまり、自然体験の場でもある国立公園などの地域では、歩行者の立ち入りを完全に制限できないため、利用者を受け入れつつ、外来生物の侵入を防ぐ対策が必要になる。

しかし、訪問者が意図せずに持ち込んでしまうのタネの量や、タネを持ち込んでいる訪問者の外来植物に関する知識や問題意識の程度、有効な持ち込み防止対策として期待される訪問前の靴の清掃をしている訪問者の割合、さらに、これらの関係についての定量的な知見は殆どわかっていなかった。

問題意識あるが、行動は講じず

収集したうち有効な344人の訪問者の土サンプルのうち27サンプル(7.8%)に発芽可能なタネが含まれていた。発芽した44個体のうち、種同定できた6種は全て立山には本来生育していない植物で、少なくとも7.8%の訪問者の靴に発芽可能な外来植物のタネが付着していたことになる。

また、アンケート回答者のうち、81.4%がヒトによる外来植物のタネの移動が起きることを知っていると回答し、93.3%が外来生物の侵入がもたらす影響について「よく知っている」あるいは「やや知っている」と回答していた。同様に、外来生物の侵入がもたらす影響が「とても問題である」あるいは「やや問題である」と答えた割合は93.3%だった。

一方、実際に環境を守る目的で前回靴を使用してから今回の訪問までに靴を清掃したと回答した割合は3.8%。これらの結果を統計分析すると、外来生物に関わる知識を持つ訪問者ほど、外来生物が引き起こす問題に問題意識を持つ傾向が確認されたものの、高い問題意識は必ずしも対策行動(環境を守るために訪問前に靴を清掃すること)を促進するものでないことが分かった。

また、訪問前に靴を清掃したヒトから採取した土サンプルから発芽した数は、靴を清掃しなかった人の約半分の52.8%。こうしたことから、外来植物がもたらす被害に関する問題意識を持っていても、靴の訪問前の清掃など実際に抑止に繋がる行動を講じていないことが、外来植物の持ち込みを抑止するうえでの障壁となっていることが浮き彫りとなった。

外来植物の侵入がもたらす影響に関する知識を、多くの回答者がテレビを通じて得ていたことから、テレビを介した情報提供だけでは、この問題意識と実際の行動のズレを解消することが難しいと考えられる。

加えて、登山靴・トレッキングシューズを履いていた訪問者の土サンプルからは、それ以外の靴(スニーカー等)を履いていたヒトの土サンプルよりも発芽数が多く、統計学的な補正を行うと2.3倍になると推定される。研究グループでは、複雑な形状の底面(ソール)の靴を履いて自然地域を訪れる時は特に、丁寧に靴を清掃することが望まれるとしている。


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