たった1回の投薬で効く体内触媒戦法―細胞毒性ペプチドを金属触媒でがん細胞に貼り付ける―。理化学研究所と東京工業大学などの共同研究グループは、遷移金属触媒を用いて、マウス体内のがん細胞表面に「細胞毒性ペプチド」を貼り付けることにより、腫瘍の成長を抑制し延命させることに成功した。
この研究成果は、細胞毒性ペプチドと遷移金属触媒を静脈からたった1回注射投与するだけでがんを治療するという、前例のない効果的な生体内合成化学治療で、今後の創薬や医療に大きな影響を与えるものと期待される。
副作用は確認されず
がんの化学療法では、薬物の血中濃度を維持したり、がん細胞に対するダメージを蓄積させたりするために、抗がん剤を反復投与する必要があるのが課題だった。
今回、共同研究グループは、そのままでは無毒でありながら、細胞表面に貼り付けると細胞毒性を示す6アミノ酸残基からなるペプチド(分子)を発見した。このペプチドにベンジルフルオライド構造を導入したものと、遷移金属(ルテニウム)触媒複合体とをマウスに静注すると、体内で、反応性の高い中間体が生成される。
遷移金属触媒複合体は、がん組織に選択的に送達されるように設計されているため、ペプチドは効率よくがん細胞へ貼り付き、抗がん作用が発揮される。
ペプチドと遷移金属触媒をマウスに1回投与するだけでがん細胞の増殖が抑制され、副作用もみられなかった。
この研究成果は、英国・王立科学会が出版する世界的科学雑誌『Chemical Science』のオンライン版(29月2日付)に掲載された。