大阪大学大学院工学研究科の松崎典弥教授らの産学研究グループは、和牛肉の複雑な組織構造を自在に再現可能な「3Dプリント金太郎飴技術」を開発することで、筋・脂肪・血管の線維組織で構成された和牛培養肉の構築に世界で初めて成功した。
これまで報告されている培養肉のほとんどは筋線維のみで構成されるミンチ様の肉で、肉の複雑な組織構造を再現することは困難だった。
今回、松崎教授らの研究グループは、筋・脂肪・血管という異なる線維組織を3Dプリントで作製し、それを金太郎飴のように統合して肉の複雑な構造を再現する「3Dプリント金太郎飴技術」を開発し、肉の複雑な組織構造をテーラーメイドで構築すること可能となった。和牛の美しい〝サシ〟など複雑な肉の構造を再現できるだけでなく、脂肪や筋成分の微妙な調節ができるようになると期待される。
この研究成果は、英国科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」で、8月24日に公開された。
「タンパク質危機」解決策の一つに
世界の人口は2050年には、97億人に達すると予想されており、人口増加や食生活の向上が、タンパク質の需要と供給のバランスが崩れるタンパク質危機(プロテインクライシス)を引き起こすとの予測がある。
そこで、代替タンパク質として植物由来タンパク質と共に期待されているのが培養肉。培養肉は、動物から取り出した少量の細胞を培養により人工的に増やして作られ、2013年頃から研究が本格化してきた。現在では、大学の基礎研究だけでなく、実用化に向けて世界中で様々なベンチャー企業が設立されている。
しかし、これまで報告されている培養肉のほとんどは筋線維のみで構成されるミンチ様の肉で、肉の複雑な組織構造、例えば和牛の“サシ”などを再現することは困難だった。この研究成果により、望みの構造を有する培養肉をテーラーメイドで生産できるようになるため、将来のタンパク質危機に対する解決策のひとつになると考えられる。
また、これまでの食肉生産では、大量の穀物や水、広大な放牧地確保のために行われる森林伐採、さらに家畜の糞尿や〝ゲップ〟などのメタンガスに起因するオゾン層破壊などを懸念する声があり、これらの軽減などにも貢献できる。
さらに、牛の成長と比較すると極めて短時間で培養肉が得られるため、より効率的な生産が可能となる。
今後、3Dプリント以外の細胞の培養プロセスも含めた自動装置を開発できれば、場所を問わず、より持続可能な培養肉の作製が可能となり、SDGsへの大きな貢献が期待される。