2021年8月31日 果樹のハダニ類防除体系標準作業手順書を公開 土着天敵と天敵製剤の2つの天敵利用技術を活用

農研機構を代表機関とする農食事業28022Cコンソーシアムは、果樹の難防除害虫ハダニについて、天敵を主体とした新規で実用的な防除体系「〈W天(ダブてん)〉防除体系」を確立した。この防除体系は、土着天敵と天敵製剤の2つの天敵利用技術を適宜に組み合わせて使用する。また、農研機構では、防除体系のリンゴ・ナシ栽培への普及を進めるため、基礎の解説を含めた3編の標準作業手順書(SOP)を作成し、ウェブサイトで公開している。

 

薬剤抵抗性を発達させやすいハダニ

近年、SDGsの達成が世界的目標となるなか、農業生産においても生産力向上と持続性の両立がより一層重要な課題となっている。病害虫防除では、環境負荷軽減と薬剤抵抗性の発達回避のため、化学合成農薬だけに頼らない技術の開発と普及が求められている。

ハダニは体長0.5mmほどの小さい害虫だが、気温が高いと増殖が非常に早く、化学合成農薬(殺ダニ剤)への薬剤抵抗性を発達させやすい。一部の産地では、防除効果を補うための追加散布の常態化によるさらなる薬剤抵抗性発達が問題となっている。このため、新たなハダニ防除戦略として開発された〈w天〉防除体系の導入を容易にするため、実践的な作業手順書の作成が求められていた。

 

「〈w天〉防除体系」の特徴

リンゴやナシでは年3回程度の殺ダニ薬散布が慣行的に行われている。農研機構が代表を務める農食事業28022Cコンソーシアムが構築した「〈w天〉防除体系」は、〝果樹園に自然に生息する土着のカブリダニ(土着天敵)〟と、〝製剤化されたカブリダニ(天敵製剤)〟のそれぞれの長所をうまく活かした経済性と実用性に優れた天敵主体の防除体系。①天敵に配慮した病害虫防除薬剤の選択、②土着天敵の住処となる草生管理、③補完的な天敵製剤の利用、④協働的な殺ダニ剤の利用の4つのステップで構成される。

この〈w天〉防除体系の技術の紹介と普及については、これまではマニュアルにより進められてきたが、今回、より一層の普及を図るため、内容をより実践的なSOPとして充実させた。

 

〈w天〉防除体系の導入のための説明書

今回とりまとめられたSOPは、〈w天〉防除体系を実際に導入するための説明書であり、樹種別に体系導入の手順や留意点を解説するため、それぞれ独立した「リンゴ編」、「ナシ編」が作成されており、さらに本編の基礎を理解するための補助資料として「基礎・資料編」が作成されている。果樹の栽培環境は多様であり、天敵の利用技術は樹種や栽培法、園地の環境に大きく依存する。そのため、安定した防除効果を得るためには、それぞれの地域や環境に適合した体系の調整・アレンジが必要となる。SOPは、その手伝いができるよう、基礎から応用までに必要な情報を提供する。

具体的な内容をみると、リンゴ編・ナシ編の1章では〈w天〉防除体系の基本構造や導入における留意点を解説している。次に、第2章では、リンゴ・ナシ栽培への導入のため、〈w天〉防除体系の構築から個別技術の導入や実践までのノウハウを解説し、モデル体系や導入事例を紹介している。

また、「基礎・資料編」の1章では、果樹栽培におけるハダニ被害や、薬剤抵抗性の発達など現行管理の問題点について詳しく解説している。2章では、カブリダニ類の生態や捕食特性について解説するとともに、果樹で登録がある天敵製剤を紹介している。3章では、〈w天〉防除体系を構成する個別技術の基礎について解説している。さらに、巻末には、カブリダニに対する各種殺虫剤・殺ダニ剤、殺菌剤の影響を網羅したリストや、関連用語の解説、ハダニやカブリダニの調査方法などを掲載している。

 

IPMや環境保全型農業の発展に期待

〈w天〉防除体系は、カブリダニだけでなく、広く他の天敵類や受粉を助ける花粉媒介昆虫類の保護にとっても好ましいものであり、その普及は農業生態系における環境や生物多様性の保全につながる。今回公表されたSOPにより〈w天〉防除体系の活用が進むことで、さらなるIPM(総合的病害虫管理)や環境保全型農業の発展が期待される。

農研機構では、今後も〈w天〉防除体系の改良・発展に努め、より使いやすくしていくとしており、効率的な病害虫防除を目指して個別技術の開発をさらに進めていく考えだ。


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