農研機構は、東北地域におけるタマネギの生産供給体系の確立と、輸入割合の高い業務加工用の周年供給と国産のシェア拡大に向けて、東北地域の特性に適した栽培管理技術をとりまとめた「標準作業手順書」を策定し、ウェブサイトで公開した。この手順書を活用し、東北地域でタマネギ生産が拡大することで、国産タマネギの安定供給を実現することが可能になると期待されている。
国内のタマネギの消費は、家庭内で調理される青果需要が4割であるのに対し、レストラン、弁当・惣菜・加工食品などの、業務加工用の割合が6割となっており、加工用に限れば、原料全体の半数以上(約30万トン)が輸入品と推計されている。
加工食品は、家族構成の変化、高齢化などで今後も需要が高まると考えられるため、国内農業での加工需要への対応は必須の課題となっている。加工需要の大きな特徴は、定時・定量・定品質といわれるように、安定的な供給が求められること。タマネギでは、夏期(7~8月)の供給量の減少(端境期)の解消が安定供給に向けた課題となっている。
また、東北地域はタマネギ生産の実績に乏しい地域である。西日本の主要産地では、秋に定植し、初夏に収穫となるが、東北地域では越冬時の寒さによって生育が安定しない。
そこで農研機構は、冬越しない作り方として、春まき栽培の技術開発を進めた結果、夏期(7~8月)に生産できることが明らかとなった。この作型では、暑さに伴う病気や害虫発生が問題だったが、対処法を確立し、技術を体系化した。
手順書のポイント
今回とりまとめられた手順書では、タマネギの生産を安定化するため、作型に適する品種や栽培地域別の作期、栽培方法、導入事例を記載している。
特に生育後半が高温・多湿の時期と重なるため、葉を吸汁する「ネギアザミウマ」と、りん片に発生する「腐敗病」への対策を示している。「ネギアザミウマ」については、タマネギの葉部を食害し直接的に生産性を低下させるだけでなく、病害を誘発することで間接的にも生産量を減少させることを明らかにした。
これら2つの病虫害を含め、生産期間中の病害虫対策を着実に実施することで、10アールあたり5トン以上の収穫が可能となり、経済的生産の成立に向けて十分な生産性を確保することが実証されている。また、生産技術の基本として、播種期や品種についても地域ごとに最適な組み合わせを明らかにするなど、様々な要素技術が体系化されている。
タマネギの供給量が全国的に高まることに期待
2026年には、東北地域で500ヘクタール程度の作付が見込まれている。栽培技術による増収効果を踏まえると、この面積で2.5万トン程度の生産量となるが、この量は夏期の輸入量(約5万トン)の約5割にあたる。付随的には、夏期のほ場管理技術が向上することで、国内他産地のタマネギも併せて供給力が高まることも期待される。
また、生産者や生産履歴が明らかな国産原料の使用を明示した加工食品は消費者の安全ニーズに応えるものであり、国産農産物を利用した加工食品の消費によりわが国の食料自給率向上も期待される。