国立極地研究所の西澤文吾研究員(日本学術振興会特別研究員)らを中心とする山階鳥類研究所、名古屋大学、東京大学、東京農工大学、北海道大学の共同研究チームは、海鳥の一種であるクロアシアホウドリを対象とした研究によって、クロアシアホウドリの行動海域における大型海洋ゴミの分布と、ゴミへの誘引過程を調べた。
伊豆諸島の鳥島で繁殖するクロアシアホウドリは、餌であるイカや魚類を探すために外洋の広範囲を移動している。研究チームがクロアシアホウドリ13羽にGPSとビデオカメラを取り付け、取得したデータを解析したところ、約7割の個体(13羽中9羽)が、発泡スチロールやプラスチック片、漁網などの海洋ゴミに「遭遇」していた実態が明らかとなった。
このうちの1羽からは、実際にゴミをついばんでいる映像も確認された。さらに、ゴミの分布は、主要な採餌場所である黒潮の南側の海流がゆるやかな海域に集中していることも明らかとなり、そこは特に、ゴミの誤食や鳥が漁網に絡まるリスクが高い場所であると考えられる。さらに、ゴミのそばに着水したクロアシアホウドリは、平均して約5キロメートル手前でゴミを発見し、一旦ゴミのそばに着水すると、約12分間そこで過ごしていたことがわかった。これは1回の採餌に費やす時間とほぼ同じで、多くのゴミに誘引されることによって、本来の餌との遭遇機会が減少する可能性が示された。
プラスチックをはじめとする海洋ゴミは世界的に増加しており、海洋生物への影響が懸念されている。そのため古くから、船舶や航空機からの目視調査やプランクトンネットを用いた採集によって、海洋ゴミの分布が調べられてきた。しかし、特に陸から遠く離れた外洋域におけるゴミの分布や、ゴミの摂食頻度が高い海鳥の採餌場所との重複に関しては、よくわかっていなかった。
伊豆諸島付近でプラスチックをくちばしでつつく様子も
海鳥の中でも、海表面に浮いている餌を幅広く食べるアホウドリ類は、特にプラスチックなどの海洋ゴミの摂食頻度が高いことが知られている。また、近年のバイオロギング技術の進歩により、GPS記録計とビデオ記録計を同時にアホウドリ類に装着することで、いつ・どこで・何を食べているかといった詳細な採餌行動を明らかにすることが可能になってきた。こうした技術を応用した生態調査の過程で、海鳥の目線で海洋ゴミの分布を調べ、採餌場所との重複度合いやゴミに対する行動応答を明らかにすることに成功した。
研究チームは、東京から約580キロメートル南に位置する伊豆諸島の鳥島において、子育て中のクロアシアホウドリにGPS記録計とビデオ記録計を同時に装着し、13羽から位置情報と映像データを収集、解析した結果、うち9羽の動画に、海面に浮かぶ発泡スチロールや漁具など計16個の海洋ゴミが撮影されていた。
ゴミの上空を通過することがある一方で、ゴミの近くに着水することもあり、中には、赤白のプラスチックシートを実際にくちばしでつつく様子も映っていたという。また、イカや魚類という自然の餌を採餌している様子も記録されていた。
今回の研究では、ゴミの種類によって誘引の度合いがどう異なるかまでは評価できず、今後の重要な課題。アホウドリ類は、世界に22種類生息し、多くが絶滅の危機に瀕している。研究で用いたビデオ記録計とGPS記録計によるバイオロギング手法が、今後より多くのアホウドリ類に適用され、海洋ゴミとの遭遇リスクが高い海域の特定や海洋生物への影響の理解が進むことが期待される。