北海道大学大学院農学研究院の貴島祐治教授と同大学院農学院博士課程の山森晃一氏らのグループは、80年間定説とされてきたイネの冷害が起こる仕組み-イネの低温による花粉稔性の低下と葯のタペート層(花粉と接する細胞層)の肥大の相関関係-を見直した。
イネは,花粉が発達する穂ばらみ期に低温にあうと花粉の正常な発育が損なわれ(花粉不稔),米(種子)ができず冷害(障害型冷害)が起こる。障害型冷害には多くの研究報告があり,いずれも葯(やく)のタペート層(花粉と接する細胞層)と花粉不稔の間に一貫した相関関係があるとしている。これらの研究の結果は,耐冷性と感受性の限られた品種間での比較に基づいたもの。
研究では、耐冷性の程度が異なる13品種を対象とし、低温ストレスに応答して変化する多様な葯の構造異常を明らかにすることができた。全体の異常の中でタペート層肥大の頻度は、相対的に低いことがわかった。さらに低温による葯の構造異常の頻度は、花粉不稔の頻度よりもはるかに低いことから、葯の形態異常は低温ストレスへの応答の結果であり、花粉不稔の直接的な原因ではない可能性が強く示唆された。興味深いことに、構造異常は葯の3領域に集中して発生していた。
この研究での包括的な解析により、80年ぶりに葯の組織構造と花粉不稔の関係が見直され、品種の低温感受性に応じて葯形態が異なることが示された。イネにおける穂ばらみ期の葯の構造異常は、花粉不稔の直接的な原因ではないが、品種ごとに現れる葯の構造異常を特徴化することで、イネの低温耐性を強化するための遺伝的指標として利用できると期待される。
この研究成果は、日本時間7月7日公開のAnnals of Botany誌に掲載された。