横浜市立大学大学院医学研究科分子薬理神経生物学の五嶋良郎教授、同大学附属市民総合医療センター精神医療センターの野本宗孝助教、さらにサンフォード・バーナム・プレビス医学研究所(米国、サンディエゴ)、ハーバード大学教授らの研究グループは、統合失調症の患者で活性化型CRMP2の割合が増えていることを見出し、これが本疾患の病的変化を捉えるバイオマーカーとなり得ることを明らかにした。この発見は統合失調症の診断や治療につながるものと期待される。
脳が外界から受けた刺激の情報を統合し、その場に応じた適切な行動をとることにより、日々の生活を営んでいる。こうした脳の機能を支えているのが神経伝達で、その中心を担う構造体を「シナプス」と呼ぶ。シナプスは固定されたものではなく、絶えず生成と消失を繰り返している。このバランスが崩れると様々な精神神経疾患に罹患すると考えられている。
研究グループではこれまでに、双極性障害を持つ患者の脳内でCRMP2と呼ばれるタンパク質の活性化型が減っていることを解明している。一方、統合失調症は、双極性障害と同様、若年で発症例の多い精神疾患だが、これまで客観的な診断の指標が存在していなかった。
研究グループは、統合失調症患者由来の血液検体と脳検体を解析し、いずれも活性化型CRMP2の割合が増えていることを見出した。
はじめに、統合失調症患者の死後脳を対照群と比較解析。その結果、統合失調症患者の脳ではシナプスの形態が変化することと、活性化型CRMP2の量が多い傾向が示された。そこで、このCRMP2が、ヒト末梢血でも検出されるかどうかを調べたところ、CRMP2は末梢血検体でも検出されること、また、30歳未満の統合失調症患者の検体では、活性化型CRMP2のレベルが非罹患者よりも高い一方で不活性化型のリン酸化CRMP2は健常者と比べて変わらないことを見出した。
統合失調症患者におけるCRMP2の活性型と不活性型のバランスの異常は、おそらくシナプス形成、シナプス成熟、シナプス伝達の異常を引き起こす可能性があることがわかった。研究のデータは、末梢血中のCRMP2が脳内の状態を反映している可能性を示唆しており、多くは若年期に発症するとされる統合失調症患者に対する低侵襲で、迅速かつ特異的な指標になると考えられる。
今回の研究結果は、末梢血のCRMP2が統合失調症患者の病的変化の指標、すなわちバイオマーカーとなりうることを明らかにした。この研究の知見に基づき、従来、合理的なメカニズムや診断、治療法確立へのアプローチが困難であった統合失調症の診断や病態解明への展開が期待される。