科学技術・学術政策研究所がとりまとめたアンケート調査によると、大学院修士課程修了者・修了予定者全体の約2割が授業料減免措置を受け、返済義務のある奨学金・借入金がある者は、全体の3分の1ほどにのぼり、このうち半数近くが300万円以上に達していることがわかった。
また、博士課程への進学を増加できる効果的な政策を尋ねたところ、「博士課程での給与支給」「若手研究者の研究環境改善」「産業界における博士取得者に対する給与等処遇改善」を望む声が多かった。
この調査は、修士課程修了者・修了予定者を対象に、在籍中における経済的支援状況、進路状況、博士課程への進学理由や進学しない理由、在籍者の視点から博士課程への進学率を向上させるために重要な政策等について調査したもの。
○ 授業料減免措置は、全体で22.6%が受けており、最も割合が高かった30万円以上から60万円未満の減免を受けた者が3分の1(7.5%)を占めた。分野別では、人文、社会(減免を受けた者は14~15%)が、自然科学系(理学、工学、農学、保健の各分野で減免を受けた者は7%前後)より高かった。
○ 返済義務のある奨学金・借入金がある者は、全体の3分の1(35.9%)ほどで、このうち300万円以上となる者が半数近く(16.5%)を占めた。300万円以上の借入金がある者の分野別の分布は、高い順に保健の22.9%、理学と工学の各17.1%、農学の14.2%となり、自然科学系で借入金が高額となっていた。
○ 新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)の影響が継続していることを受け、コロナ禍における研究時間を尋ねたところ、全体としては「変わらない」が30.7%、「やや減った」が21.5%であった。分野別では、人文、社会で「やや増えた」(18%前後)が「やや減った」(13~16%)を上回った。
○ 自由記述からは、研究効率の低下、研究者と交流できなくなったことや研究協力や現地調査が困難となったこと、進学・留学の断念、研究対象の変更等、大きな影響を受けていることが窺えた。
○ 進路(予定)について、全体では「就職先が決定している」が62.1%、「博士課程への進学」が10.2%であった。分野別では、「就職先が決定している」のは、工学で87.0%、農学で81.8%、理学で75.2%の順で高く、「博士課程への進学」は、人文で23.1%、理学で17.0%、社会で12.4%の順で高かった。
○ 「就職先が決定している」者に、就職先の事業内容を尋ねたところ、全体では製造業が30.9%、医療、福祉が18.7%、情報通信業が11.2%であった。分野別での事業内容の第一位は、理学、工学、農学で製造業、保健で医療、福祉、人文で教育・学習支援業、社会で情報通信業であった。
○ 「就職先が決定している」、あるいは「就職活動中」の回答者に、進学ではなく就職を選択した理由を尋ねたところ、全体では「経済的に自立したい」の67.9%、「社会に出て仕事がしたい」の62.3%が特に高く、続いて「博士課程に進学すると生活の経済的見通しが立たない」が38.3%であった。この順番は分野間でも差異がなかった。
○ 博士課程への進学者を増加できる最も効果的な政策を尋ねたところ、在籍者は「博士課程での給与支給」、「若手研究者(博士後期課程学生含む)の研究環境改善」、「産業界における博士取得者に対する給与等処遇改善」の順であった。
内閣府が一部企業の博士入社社員を対象に行い、2020年8月に公表した調査結果によれば「博士後期課程での給与支給」「産業界での給与改善」が効果的との意見が多数を占めており、同様の傾向が見られた。