三重大学生物資源学研究科の立花義裕教授ら研究グループは、過去39年間にわたる観測値の分析と数値シミュレーションにより、アフリカのサヘル地域(いわゆるサハル砂漠)で雨雲が大きく発達すると、日本上空の高気圧の引き金となり、結果的にわが国猛暑の一因となっていることを発見した。この研究は、今後、日本やアジアの異常気象のさらなる解明と予測で新たな鍵となるとともに、地球温暖化の研究や防災などにも役立つことが期待できる。また、近年、サヘル地域の雨量は増加に転じており、この傾向が続く場合、今後も日本で猛暑が頻発する可能性があることが浮き彫りとなった。
この研究の成果については、異常気象や気候分野のトップジャーナルであるドイツの学術雑誌『気候力学(Climate Dynamics)』のオンラインに、5月20日掲載された。
見逃されてきた遠隔熱帯陸上雨雲の影響
サヘル地域は、サハラ砂漠のすぐ南に位置し、雨季と乾季が明瞭なサバナ気候です。この地域の雨の増減の原因については、ヨーロッパの研究者を中心に調査が行われてきました。一方、日本の異常気象については、エルニーニョ等、熱帯海洋の気候条件による影響を考察する研究が盛んに行われていますが、サヘル地域のような日本から遠い熱帯陸上の雨雲の影響という視点はこれまで見過ごされていた。
この研究は、日本やアジアの異常気象のメカニズムをこの新たな視点から解明しようとしたもの。
サヘル地域では、雨期(6月~9月)に大量の雨が降る。雨をもたらす雲は、サヘル全域の上空を広く覆い、この広域で発生する雲が、アフリカ北部上空の高気圧を強める。さらにその高気圧は、ヨーロッパ上空に吹く偏西風を蛇行させ、その蛇行が偏西風の下流に位置する東アジアや日本にまで続き、蛇行に伴い日本上空の高気圧を強め、日本の天候に影響を及ぼすことがわかった。
立花教授らは、こうした研究から、サヘル地域で雨雲が発達すればするほど、日本上空の高気圧が張り出し、猛暑になりやすいと結論づけた。実際、日本で観測史上最高の猛暑を記録した 2018 年には、サヘル地域でも記録的な雨量を観測している。
高気圧になると高温になりやすいのは、大気が圧縮され気温が上がりやすくなり、また雲がなく日差しが強く地上に届きやすくなることも、明らかにした。