国際社会が共通して取り組むことが求められている持続可能な開発目標(SGDs)―。ここ数年、急速に関心が高まっているSDGsだが、旅行代理店といった旅行業で実際に取り組んでいる企業の割合は2割に満たず、全業種で最も低かったことが、立教大学等の調査で明らかとなった。従業員数が10名以下と少なく、十分な時間などを割けないことが大きな要因。
この調査を行ったのは、立教大学観光学部(埼玉県新座市)の野田健太郎教授と、(株)JTB総合研究所(東京都品川区)。観光業とともに農業や飲食業、製造業など全業種の企業対象に調査を実施。観光産業でのSDGsの取り組み推進に向けた組織・企業団体の状況調査を、他業種との比較も加えながら実施した。
国連が2015年にSDGsを定めてから5年が経ち、世界中の広い分野でSDGsの取り組みが加速している。調査では旅行・観光業のSDGsの対応状況を把握するとともに、小売業、不動産業、製造業など観光とつながりのある業種の取り組みを調べ、その比較から旅行・観光産業でのSDGsの推進に向けた課題について考察した。
「ビジネス効果」が取り組みのカギ
調査では、回答企業の経営部門でのSDGsの認識と取組状況を聞いた。「対応をすでに行っている」は15.1%、「対応を検討している」は12.9%となり、両者を合算した「取り組みを行っている」といえる企業の割合は28.0%にのぼった。一方で、18.5%が「SDGsは認知していない」と回答した。
従業員数別にみると、1001名以上では91.7%の企業がSDGsに取り組んでいると答えた一方で、100人未満ではいずれも2割前後に留まった。
業種別で「取り組みを行っている」が最も高かったのは金融・保険業(85.7%)で、最も低かったのは観光業(20.3%)。特に旅行業が16.0%と最も低い結果となった。この結果について、野田教授らは、調査で回答した旅行業のうち76.5%が従業員数10名未満のため、SDGsの対応に事業リソースを割く余力が少ないと分析。一方で、金融・保険業の割合が他業種より高いのは、国連が2006年に定めた責任投資原則(PRI)を受けてESG(環境・社会・ガバナンス)への配慮が浸透していることが、SDGsへの取組につながっているとした。
SDGsに取り組むとどんな効果があると思っているか聞いたところ、全業種では「従業員の意識の向上」が55.8%と最も高く、「ブランド力の向上」(34.9%)、「経営方針の明確化」(28.6%)と続いた。
観光産業に注目すると、上位3位は、回答率が若干低いものの全業種と同じ結果だったが、「売上の増加」「収益の増加」「取引先の増加」については全業種より大幅に高い結果となり、営業活動効果への期待の高さが浮き彫りとなった。
SDGsに取り組んでいる企業と取り組んでいない企業別に比較すると、「売上の増加」「収益の増加」「取引先の増加」に関してはSDGsに取り組む企業よりも観光産業の方が高い結果に。観光産業は取り組み率が低いにも関わらず、過度にビジネス効果への期待が高いか、ビジネス効果への期待がなければ積極的に向き合わないとも受け取ることができそうだ。
また、観光産業が取り組む上での課題として、「必要な人材が不足している」(観光産業38.5%、全体37.0%)「運用する時間的な余裕がない」(観光産業35.9%、全体26.0%)、「必要な予算が確保できない」(観光産業35.9%、全体21.3%)が全業種より大幅に高くなった。
SDGsに取り組むためのリソースを十分に確保できないことが課題となっているとうかがえる。観光産業がSDGsの取組に対して期待する支援策は「SDGsに取り組む際に利用できる補助金」が69.2%と最も割合が高く、「SDGsに取り組んだ企業に対する認証、認定」「SDGsをテーマにした地域との連携」がいずれも61.5%。「SDGsをテーマにしたビジネスマッチング」(56.4%)、「SDGsを活用したビジネス策定の支援」(46.2%)と続いた。