インドの大気中窒素酸化物レベルの大幅な低下は、ロックダウンのせいだった―。世界でも有数の大気汚染都市として知られるインドの首都・デリー。東京大学生産技術研究所問総合地球環境学研究所などの研究グループは、衛星データと数学的モデリングを使用した新しい手法で、デリー周辺のロックダウン後の都市部と近郊農村部の窒素酸化物の濃度から排出量の変化を推定。その72%は車やバスといった交通と工場から排出される人為的活動由来であることを明らかにした。
大気汚染は今も世界各地で広がり、EUや日本の隣国、中国でも多くの人々に深刻な健康被害を引き起こしていることから、日本にとっても無縁な問題ではない。WHO(世界保健機関)の統計によると、大気汚染が激しい世界の都市の多くはインドにあるが、新型コロナウイルス感染症防止のための拡大ロックダウンが昨年3月に始まった後、インドでは大気汚染が静まり、きれいな青い空が戻ってきたことが多数報告された。
ロックダウン後にはただちに濃度増加
大気汚染物質のひとつに窒素酸化物があるが、今回、研究グループは、衛星データと数学的モデリングを使用した新しい手法で、デリー周辺でのロックダウン後の都市部と近郊農村部の窒素酸化物の濃度から、排出量の変化を推定。その72%は交通と工場から排出される人為的活動由来であることを明らかにした。
また、農村部では、おそらくロックダウン解消後の藁焼き再開により、ただちに濃度が増えていることも突き止めた。
研究チームは、今回開発された方法を用いることで、今後、藁焼きシーズンが来たときに、周辺の農村での藁焼きがデリーの大気汚染に与える影響を定量的に評価できるとしている。
この成果は、地球研プロジェクトAakash(ヒンディー語で「空」)の一環である「ミッションデリー(大気汚染物質の排出変化の検出:ヒューマンインパクト研究)」という研究として行われ、今年5月7日付の「Scientific Report」誌にオンライン掲載された。