国立立研究開発法人産業技術総合研究所健康医工学研究部門人工臓器研究グループの三澤 雅樹主任研究員らは、遠隔診療機能を装備し感染防護対策されたエックス線診療車(ICXCU:Infection‐Controlled X‐ray Care Unit)を開発した。公益財団法人筑波メディカルセンターの廣木昌彦脳神経内科 専門部長、茨城県立医療大、北里大、東京都立大、駒澤大、㈱フォーカスシステムズ、㈱ピュアロンジャパンと共同開発。
エックス線診療車は、胸部エックス線撮影装置を搭載した車両に、感染防護のための換気機能、オンライン診療できる医療情報伝送システム、初期診療に必要な医療機器を搭載している。これらの機器搭載により、新型コロナウイルス感染症陽性患者のメディカルチェックを病院外で行うことができるため、一般患者との接触を防ぎ、検査室での陰性患者との同席を回避できるので、必要な検査を迅速に行えるようになる。
望まれる保健所支援の負担減策
新型コロナウイルス感染の拡大が続くなか、医療従事者の二次感染防止と保健所負担軽減は急務。新規感染者の増加に伴い、保健所や医療に携わる従事者にはストレスが蓄積し、救急医療体制の混乱も招いている。
国内感染者数は77万人を超え(6月15日現在)、重症者も増えている。また、クラスター発生施設の診断や軽症者の健康管理では自治体が指揮をとり、感染症指定病院と協力して診療に当たっているが、医師や看護師の感染は医療提供体制に大きな影響を及ぼす。現在、特に大きな負荷がかかっている保健所の業務支援や地域医療の負担軽減策が望まれている。
病院以外での初期診断を可能に
胸部エックス線撮影は、多数の肺炎を疑う患者に対するスクリーニングや患者の経過観察に極めて有効である。一方、エックス線CT撮影は、より精密ではあるが、被ばく線量が高く、検査に時間を要するため、胸部エックス線撮影に基づき、医師が必要と判断した場合に実施される。
茨城県では、新型コロナウイルス感染症陽性患者のメディカルチェックで、胸部エックス線撮影が強く推奨されている。しかし、陽性患者が触れた医療機器の消毒には手間がかかり、病院内で撮影すると二次感染のリスクが高まる。現状では、胸部エックス線撮影装置を病院外に持ち出し、屋外の陰圧テント内で撮影を行っている。
一方で、据え置き型のテントは、外気温や天候の影響を受けやすく、悪天候や照明が不十分な夜間時には診察できないという問題がある。また、一旦設置した陰圧テントおよび使用する医療機器は、移動や持ち出しが容易ではないため、クラスター発生施設に直ちに設置できないという課題もみられる。
そこで、三澤主任研究員らは、移動車両にメディカルチェック用の診断機器とオンライン診療設備を装備することで、病院以外でも新型コロナウイルス感染症陽性患者の初期診断を可能にした。
この技術の詳細は、今年10月13~15日に横浜市で開催される第40回日本医用画像工学会大会で発表される予定。