人類にとって恐るべき疾病として知られている「コレラ」。法政大学生命科学部生命機能学科の今村大輔准教授と越智 郁さん(2021年3月学部卒業)は、この感染症の伝搬ルートに変化が生じていることを明らかにした。岡山大やインドの研究グループと共同で、コレラのパンデミック(世界的流行)を引き起こしているコレラ菌のゲノムには、ここ数年繰り返し配列の並びに変化が生じたため、コレラ毒素遺伝子を持ったファージ(細菌に感染するウイルス)のゲノムを複製できなくなっていることを発見。現在継続しているパンデミックでは、放出されたファージの感染による環境中における新たな病原性コレラ菌の発生が起こらず、伝播様式が糞口経路に限定されていることを示している。
コレラは病原性のコレラ菌が経口感染することにより引き起こされる急性の下痢症。発展途上国を中心として世界中で猛威を振るっており、毎年130~400万人が感染し、2万1000人から14.3万人が亡くなっている。
コレラ菌はコレラ毒素をコードする遺伝子を持ったCTXファージがVibrio choleraeという細菌に感染し、溶原化する(細菌のゲノムにファージのゲノムが組み込まれる)ことにより生じる。
歴史上、コレラは7回のパンデミックを起こしていますが、第6次までのパンデミックを起こしていたコレラ菌はCTXファージを放出することができなかった。しかし、現在継続している第7次パンデミックのコレラ菌はCTXファージを放出できることが特徴として知られていた。
このため、第7次パンデミックでは、コレラ菌がヒトからヒトへ直接伝播する糞口経路に加え、コレラの流行によりCTXファージが放出され、環境中で新たなコレラ菌が発生するルートが加わったと考えられている。
今村准教授らの研究では、インドのコレラ患者から分離したコレラ菌の完全ゲノム配列(完全に繋がったゲノム配列)を解析することにより、近年の流行株はゲノム中で繰り返し配列の並びに変化が発生。これによりCTXファージゲノムの複製能力を失ったことを発見した。
データベース上のコレラ菌完全ゲノムを調べたところ、このようなタイプの株は2007年にインドで初めて確認されましたが、2009年以降はカリブ海のハイチ、アフリカのコンゴ、アジアのタイなど、世界中でこのタイプの株に替わっていた。
これらの結果は、現在継続しているパンデミックでは、2010年ごろから伝播様式が変化し、糞口経路に限定されていることを示している。