健康な歯がうつを予防する―。東京医科歯科大学助教らによる共同研究で、自分の歯が多いとうつ症状が少ないという口腔と精神的健康の因果関係が明らかとなった。自分の歯を多く保つことがうつの予防につながる可能性が示された。この研究成果は、国際科学誌「エピデミオロジー・アンド・サイキアトリック・サイエンス」のオンライン版で発表された。
この研究成果を公開したのは、東京医歯大大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の松山祐輔助教。ラドバウド大学(オランダ)のステファン・リステル教授、ヴッパータール大(ドイツ)、キンズ・カレッジ・ロンドンとの共同研究で解明した。
これまで口腔と精神的健康の相互の関連が報告されているが、口腔の健康が精神的健康に影響するかどうか調べるには、社会経済状況や健康関心度などさまざまな背景因子を考慮する必要があり、これまで因果関係は明らかにされてこなかった。
米国ではむし歯予防のために水道水フロリデーション(虫歯予防のため、水道水中のフッ化物イオン濃度を緑茶に含まれるのと同じくらいの濃度に調整する保健施策)が実施されており、導入時期や人口カバー割合が地域で異なっている。研究では、カバー割合の差などに着目し、水道水フロリデーションという外的要因で守られた歯がうつ症状を減らすか明らかにすることを目的に行われた。
歯を1本失うごとに増える「うつの割合」
分析の結果、5‐14歳のときに水道水からのフッ化物曝露は大人になってから自分の歯が多く残っていることについよく関連していた。さらにうつ症状との関連性を調査。歯を1本失うごとに、うつ症状点数が高くなることがわかった。また、統計的に有意でないものの、歯を1本失うごとに、中等度以上のうつ症状がある人の割合が0.81パーセントポイント増えた。
口腔疾患は多くの人にみられる病気で、わが国でも約4000万人が未治療のむし歯があると推計される。一方で、口腔疾患はフッ化物応用の普及、佐藤摂取の減少、禁煙環境の整備などで予防可能。この研究から、自分の歯を多く保つことはうつの予防にもなる可能性が示された。