〝見えない壁〟で転倒予防を実現!?―。横浜国立大学准教授らの研究グループは、何かに触れていると安心するという人間の特性「ライトタッチ現象」を利用したバランス能力向上装置を開発した。何もない空間で物体に触った感覚を振動として指先に与えることで、この現象を再現できることを、世界で初めて発見・実証。開発した装置を装着することで、どこにも触らなくてもバランス能力の向上が可能になるという。立位・歩行中に着用することで転倒予防に貢献するとともに、この技術を応用した転倒リスクの評価や機能改善訓練への展開も期待される。
反力を指先に与えライトタッチ現象を再現
この装置を開発したのは、横国大工学研究院の島圭介准教授と県立広島大学保健福祉学部の島谷康司教授らの研究グループ。
ライトタッチ現象は、人々がカーテンや紙などに指先で軽く触れていると安定して立てたり、転倒しにくくなる現象。研究Gでは、何かに触れたときの反力を振動で表現して指先に与えることでこの現象を再現できることを世界で初めて発見。全く新しい立位・歩行サポート法として、小型転倒予防装置を開発・提案した。
あらためていうまでもなく、わが国では高齢化社会が進み、問題となっている。高齢者が抱えるリスクとしては「転倒」があり、これは介護が必要となる要因の一つ。さらに高齢になるにつれて転倒リスクが大きくなる傾向があることから、効果的な転倒予防の必要性が求められている。
転倒予防としては、一般的に杖や歩行器などの歩行補助用具が広く用いられているが、補助用具による姿勢の安定化は効果的であるものの、不適切な使用方法や特定の環境下では運動機能の悪化や転倒リスクが増加するといった見解もみられている。
一方、固定点へ指先で軽く触れることが直立姿勢時の動揺を顕著に減少させることが明らかにされている。この現象はライトタッチコンタクト(LTC)と呼ばれ、これまでに関連する研究が数多く行われている。しかし、この効果を得るためには指先が固定点へ触れることが必要不可欠であるため、機械的支持がない場所では行うことができないという問題点がある。もしあらゆる空間でLTC現象による姿勢保持効果を得ることができれば、立位・歩行時の姿勢補助支援が可能となり、転倒事故防止に貢献できる可能性がある。
そこで、研究Gでは、機械的支持がない場所でも仮想的な物体に触れることで姿勢の安定化を可能とする新しい方法論の提案を試みた。