東京大学生産技術研究所の山崎 大准教授、MS&ADインターリスク総研㈱の越前谷 渉 主任研究員からなる研究グループは、多段階の計算とデータ処理の結果導き出される「広域洪水ハザードマップ」の不確実性をもたらす主要な要因が、河川氾濫モデルへの入力となる流出量データにあることを突き止めた。
現地自治体や国際的な研究機関などが作成する洪水ハザードマップは、公的セクターで土地利用や避難計画などに利用されるだけでなく、民間でも持続的な事業計画の策定に活用され、災害に対してレジリエントな社会を構築するための基盤情報。しかし、洪水ハザードマップの構築には、気象外力の想定・降雨-流出モデル・河川氾濫モデル・極値統計解析などさまざまなデータ整備と多段階の計算ステップが必要になるため、精度評価や誤差要因の特定が困難であった。
複数の降雨-流出モデルで計算した流出量データを入力として地球全域を対象に洪水シミュレーションを実施。その結果に複数の統計解析手法を適用することで、地球上の任意の地点における洪水規模ごとの浸水の深さと浸水域の不確実性の幅を推定した。
その結果、不確実性の幅の約80%が入力流出量データで説明でき、特に半乾燥域や山岳域では想定される浸水深さのばらつきが大きくなることを示した。
また、200年に一度といった低頻度災害については、過去の気象データのサンプル数の制約のために、極値分布関数の選択といった統計解析手法の差による不確実性も無視できなくなることを突き止めた。
この研究によって広域洪水ハザードマップが示す不確実性が明らかになったことで、防災計画や事業継続計画の策定で考慮すべきリスク情報の誤差が定量化された。また、河川流量の観測データなどを用いて入力流出量データの精度評価と選択をすることで、広域洪水ハザードマップの信頼性を大幅に改善できる可能性があることを示した。